[日曜の風・室井佑月氏]野蛮な人たち 学術会議任命拒否


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室井佑月 作家

 日本学術会議が推薦した会員候補6人を菅義偉首相が任命しなかった問題について、学術会議が悪く思われるようなデマを、政権擁護の著名人たちがTVやインターネットで次々と一斉に発した。

 学術会議の研究が中国の軍事研究に利用されている、国から不当に学者個人にお金(年金)が出る、軍事研究をしようとした北大に学術会議が圧力をかけてやめさせた…。すべてデマだ。それに、これらは今回排除された学者とはまったく関係がない。地上波でも、ファクトチェックせずそれらを流した。デマを流した著名人たちは、今でも出ている。今度は問題のすり替えを謀って。

 今回の出来事がなぜまずいのか。法律違反だからだ。任命は「推薦に基づいて」となっている。基づいてという言葉通り、その基本を変えてはいけないものだ。1983年、内閣法制局は学術会議に関して、首相の任命は「形式的任命である」と明確に記している。

 それに憲法違反でもある。憲法23条の学問の自由にも違反している。

 それなのに政府は、今度は学術会議は行政改革の対象だといいだし、学術会議のあり方を見直すプロジェクトチームなるものを立ち上げた。政権擁護の著名人たちも、税金で行われていることなのだからそのあり方を見直すのは当然である、ともっともらしく吠(ほ)えだした。話のすり替えがはなはだしい。

 日本のこの問題について、仏ルモンド紙は「日本の菅首相、知の世界と戦争状態」と書いていた。ほかにも海外の大学や有名な学術雑誌が抗議声明を次々にだした。

 たしかに現在この国では、知を憎む者たちが、知を尊ぶ者に対して、戦争を仕掛けているのかもしれない。

 知を憎む者たちは、自分らのやりたい放題をするために、知から引き出される真実が邪魔なのだ。

 ちなみにこの国でも、以前は学問に政治が口を出すことは、野蛮なことであると多くの人が知っていた。それは世界共通認識でもあり、この国の戦争体験から出た教訓でもある。

(室井佑月、作家)