<記者解説>首相所信表明 辺野古とイージス 二つの国防政策に違い際立つ


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第203臨時国会で所信表明演説をする菅首相=26日午後、衆院本会議場

 菅義偉首相は26日の所信表明演説で、安倍前政権最後の施政方針演説で消えた「辺野古」「普天間」の文言を“復活”させた。普天間飛行場の辺野古移設を「着実に進める」とも明言しており、移設問題について官房長官時代からの強硬姿勢を貫こうとする姿勢が透ける。その一方で、前政権が、次期政権への年内の宿題として託した、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策への言及は具体性に欠けた。二つの国防政策を巡る違いが菅首相の辺野古への異様な執着を浮き彫りにした。

 菅首相は、官房長官を務めた安倍政権下で、2014年9月から6年間にわたって沖縄基地負担軽減担当相を兼任した。当時から「辺野古が唯一の解決策」と繰り返してきたが、演説でもその姿勢に変化はなかった。「辺野古移設の工事を着実に進める」とする一方、自身が主導した米軍北部訓練場の一部返還を「着実に前に進めてきた」と誇った。辺野古移設が既定路線であることを強調するような物言いだ。

 防衛省によると、辺野古新基地建設の総工費は、軟弱地盤の改良工事の影響で9300億円に膨らみ、工期は12年以上を要する見込みだ。沖縄防衛局は県に設計変更書を提出したが、軟弱地盤問題の抜本的な解決策を提示するまでに至っておらず、審査で不承認となる公算が大きい。これらの問題を抱えてもなお、菅首相は移設計画を再考するそぶりさえ見せない。

 しかし、辺野古新基地と同様に、コスト増大と工期長期化の問題が浮上し、配備計画が頓挫したイージス・アショアへの態度は真逆だ。安倍前首相は退任前、次期政権に代替策の取りまとめを年内に行うよう求める異例の談話を発表した。しかし菅首相は代替策について「談話を踏まえる」とするのみで具体的な取りまとめ時期に言及しなかった。辺野古移設に懸ける熱量との違いは歴然だ。

 菅首相は「国民から信頼される政府を目指す」と演説を締めくくった。国防政策の不可解な偏りの背景を明かすことなくしては、県民からの信頼を得ることはできない。
 (安里洋輔)