「囲碁はやめられない」 92歳の宮良さん がん乗り越え、新たな人生ステージへ


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毎日欠かさず囲碁の勉強をする宮良長辰さん=9日、北中城村島袋の「アワセ囲碁クラブ」

 【中部】沖縄県北中城村島袋にある「アワセ囲碁クラブ」の席主宮良長辰(ちょうしん)さん(92)は囲碁歴約70年。沖縄市の動物園「沖縄こどもの国」の拡張工事に伴う転居のため、13年続いた囲碁クラブは11月中に閉館する。「囲碁はやめられない。囲碁クラブはなくなるけど、これからも続けていくよ」と笑う。かつてがんを乗り越え、いまは至って健康体の宮良さんは、新たな人生ステージを見据えている。

 20代から囲碁を始め、その魅力にはまった。新聞や雑誌に掲載されたタイトル戦の譜に目を通しながら一手ずつ確認するのが日課だ。毎日欠かさず、約5~6時間は碁盤に向かう。「囲碁は考えるスポーツ。毎日頭を鍛えている」

 生まれは石垣島で、戦後、軍作業に従事するため沖縄本島へ移住した。1952年ごろ、琉球列島米国民政府(USCAR)が設立した英語学校に入学し、寝る間を惜しんで勉強したという。卒業後は同校の教員の紹介で、週刊誌「This Week」の編集に携わった。

 得意の英語を生かし、沖縄ツーリストの添乗員や國場組で通訳などを務めた。ヨーロッパや東南アジア、中東など世界中を駆け回った。

 娘の賀数美紀さん(58)は「海外での仕事が多い中でも週末はドライブや食事に連れて行ってもらった。家族思いの父親だった」と振り返る。

 定年後、囲碁クラブがある自宅で発酵ウコンの販売を始めた。一方で、働き詰めの宮良さんの体は悲鳴を上げ始めた。事業を始めて間もなくして大腸がんが発覚。手術のため約1カ月入院し、碁盤に向かえない日々が続いた。手術成功後は転移もなく日常を取り戻した。

 健康維持の源は「囲碁と発酵ウコン」と話し「がんの後は全く病気をしていない。ウコンのおかげだ」と誇らしげに語る。

 約13年前に開館した囲碁クラブには本島中部を中心に県内各地から愛好家が集い、一戦を交えてきた。立ち退きについて常連客にもまだ報告できていないという。「手紙を書いてお礼の気持ちを伝えたい」と宮良さん。転居後は農業を始めたいと考えている。「家族みんなと幸福に暮らしていければいい」。これからも人生を謳歌(おうか)するつもりだ。
 (下地美夏子)