国際男性デー企画・せやろがいおじさん×モバイルプリンス対談「男の生きづらさって? 古い価値観アップデートしていこ!」(前編)


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 11月19日は「国際男性デー」。男性や男の子の健康や性別役割などを考え、ジェンダー平等を促す日として少しずつ広がってきている。ジェンダーギャップ(男女格差)が大きい日本では女性の活躍や地位向上に声が上げられているが、同時に最近注目されつつあるのが「男性の生きづらさ」だ。ジェンダー平等の実現には家庭や職場における男性側の課題にも目を向ける必要がある。

 「男らしさ」への息苦しさ、価値観のアップデートとは?YouTubeなどで社会問題について発信しているお笑い芸人の「せやろがいおじさん」こと榎森耕助さんと、スマートフォンアドバイザー「モバイルプリンス」こと島袋コウさんがオンラインで対談。自らの経験した「生きづらさ」から、男性の「特権」やお笑い界のジェンダー観まで、とことん語った模様を前後編の2回に分けてお届けする。

(文中敬称略)

聞き手・編集=慶田城七瀬、仲村良太、黒田華
撮影=又吉康秀

 

~プロフィール~

せやろがいおじさん

榎森 耕助(えもり・こうすけ)1987年、奈良県出身。2007年にお笑いコンビ「リップサービス」を結成。時事問題などに鋭くツッコミを入れる「せやろがいおじさん」として、ユーモアと風刺を交えた笑いをYoutubeで配信する動画が多くの人の共感を呼ぶ。初の著書「せやろがいではおさまらないー僕が今、伝えたいこと聞いてくれへんか?」を刊行。

 


モバイルプリンス

モバイルプリンス(島袋コウ) 1987年、沖縄市出身。お笑い芸人・携帯電話ショップ勤務の経験を活かし、スマホ・ ネット活用の方法を楽しく、分かりやすく伝える。琉球新報での連載をはじめ、 「サイバー防犯PR大使」として県内外で活動中!著書「しくじりから学ぶ 13歳からのスマホルール」を初出版。せやろがいおじさんとYouTubeラジオ番組「コネラジ」で出演中。

 

話は「もやもや」を直視してから

モバイルプリンス(以下モバプリ) 皮肉なんだけど「モバイルプリンス」も「せやろがいおじさん」も名前が男性性(男らしい性質)みたいなところがある。でも実際には2人とも「男らしさの競争」から降りているんですよね。

榎森耕助さん

せやろがいおじさん(以下せやろがい) 僕自身、男性が特権的な立場にあるということに気付くまで無自覚に男性性を振り回し、その男性社会でどう活躍するか考えていたところがあった。イベントに出たり本に触れたりして、まずやるべきなのは女性の生きづらさに耳を傾けることなんじゃないかと思った。

モバプリ 「男もつらいから我慢しろ」という言い方を目にする。これは順番がちょっと違うよねと思う。「女性の生きづらさ」と「男性の生きづらさ」は本来は相対的で互いに協力して解決しようというのものなのに、鏡のように語られることがある。 

モバイルプリンスさん

 実は男の生きづらさって男の特権の弊害みたいなものだと思う。例えば、女性に対して食事代を全部出すのが「男らしい」ことだからお金を持っていないと肩身が狭いとか。仕事をしていない人や収入が低い人は惨めな思いをする。「俺はこんなに無理してまで払わないといけないのか。男というだけで払わないといけないのか」って女性に対して憎悪を向ける人もいる。でもこれって、そもそも単純に男女で賃金格差があって、男性が賃金多いから払いましょう、というところから来ていると思う。男性優位社会であるがゆえに出てくる問題だと思う。そこを取っ払えればいいと思う。

せやろがい モバプリさんが言ったように、男性自身が男性の生きづらさを語るとき、気を付けないといけない。例えば、1年生が雑用を押しつけられるという訳の分からない学校の伝統があるとして「俺らもやってきたからお前らもやれ、我慢しろ」ということじゃない。男性にも女性にも生きづらさがある。しんどいならみんなでそれを解消しよう、という方向に持って行くために語らないと危ない。

 

性別役割に縛られてない?

せやろがい 女性は家事と育児をして、男性は働いて家族を養う、という性別役割についての共通認識がまだ世の中にある。女性に「ちゃんと料理も家事も子育てもこなしてくれ」と押しつけてしまうと、男性側も自分が仕事できない状況に陥ったり、適性がなくて辞めたくなったりしても、「一生責任を持って家族を養う」という十字架を背負うことになってしまう。女性に性的役割を求めると、同時に男性も性的役割に縛られる。そこに生きづらさが発生すると思う。

モバプリ 妻は専業主婦で家のことをやり、男も稼いでいたらある種の「勝ち組」みたいな。もてはやす風潮がある。これが男女が逆で、夫が働かず妻が支えていると男は人でなしみたいに言われる。本来は適材適所。働くのに向いている人が妻なら、夫は家のことをしてもいい。 

せやろがい ジェンダー(性差)を取っ払った上で、個人としての自分の特性は何か、何を取り組んでいるときに充実しているか。男性がドメスティック(家庭内)なことをやるのが好きで得意なのに役割を担わないとか、女性は外で稼ぐのが得意で社会でバリバリ働ける特性があるのに家事をやらないと認められないというのは非効率的。男女ともに損失があると思う。

モバプリ 野球チームに例えると、ピッチャーに向いている選手なのに適正を見ずに外野やキャッチャーをさせていたら、めちゃ弱くなる。それくらい不毛だ。生き方や働き方で考えた方が良いのだけど、まず性別が先に来てしまう。

コンビ「リップサービス」としても活動している榎森さん。左は相方の金城晋也さん

せやろがい 沖縄のお笑い芸人はジェンダーをとっぱらって夫婦で役割を分担している人が多いかも。家庭を持っている男性芸人の稼ぎが少ない場合、奥さんがバリバリ働いて稼ぐ。売れていない男性芸人が子育てをしっかりしてイーブン(互角)みたいなのもしばしば見られる。

モバプリ ひと昔前なら、自分の夢のために稼ぎもせず駄目な夫と言われていた。今では、逆手にとって料理の腕を上げたり、子育てに向き合ったり、家庭にフィードバックしている部分もある。自分のため、家のため、みんなのために良い。

せやろがい 少しずつ変わっている。昔は3Kとか言われて、「高収入、高身長、高学歴」が女性にモテた。身長は生まれつきだとして、高学歴・高収入であらねば男性として価値が低いと。収入も学歴も上の相手と比べて「俺の方が価値が低い」とか男性間での値踏みがあった。

モバプリ めちゃくちゃあった。

 

「男らしさ」の土俵から降りてみたら

せやろがい 自分自身を振り返っても、昔の男性像で序列がついて、自分を価値ないもののように思う自己肯定感の低さに結びつける生きづらさはあったかな。「せやろがいおじさん」をやるまで食っていけない状態で、家賃も2、3カ月滞納するのが当たり前。取り立ての電話がかかって来たりする状況だった。そんな頃に同級生と電話すると「一軒家を買った」「子どもも2人生まれて大変」とかいう話で。「俺は俺で好きなこと追いかけていい」とか「その人はその人で頑張っていい」とは思えなかった。自分が劣っていると感じてしまうところはあったね。

モバプリ お金とか社会的地位とか。男同士で価値を測る基準に「優しさ」はない気がする。マッチョイズム(=強さなど男性らしさを重んじる思想)では、(優しさは)弱さと近い。例えば、ボランティア活動しているとか男の社会では鼻で笑われる。僕も経験があるんだけど、ちょっと真面目なことをFacebookで書いたり、社会問題を取り上げるような仕事をしたりするとき、最初は照れ臭くて、最後に「うんこ」と書いてごまかしていた。

せやろがい 幼稚やな(笑)。

モバプリ 恥ずかしがることじゃないし、ちゃかすことでもないんだけど。そういうところに(男社会のマッチョさ)が表れているなと。

普段から「王子様」の格好で活動しているモバイルプリンスさん

せやろがい すごく分かる。自分の男性性と向き合って、女性がどんなふうに生きづらかったかを想像してみるといったイベントに出たりすると「お前モテたいんか」と言われる。ただ、おかしかったな、反省せなあかんな、という気持ちでやっているが、一部の前時代の男性性の世界からみると「さてはモテたいんだな」という発想になる。こうした男社会の価値観の中で生きるのが面倒になってきた。  

 「生涯現役」という言葉も気になる。いつまでも女性から見て魅力的で、既婚だとしてもいろんな女性の相手をしますという言葉で、マッチョな発想から出ている気がする。

モバプリ どんなところを愛しているか、ではなくて、相手が若くてかわいいいとか、外見だけで内面を表していない。

せやろがい ありますね。特に芸人の世界で。芸人の世界でまじホモソーシャル(=※同じ価値観を共有する仲間同士)の濃いところだったりする。 芸人として「色っぽい」か、どれだけ女性を抱いたか、という競争みたいなのが変にあって。僕自身は、そういうのはもういいや、と思ってから楽になった。

モバプリ 僕も、そういうホモソーシャルとかマッチョイズムに組み込まれなくなった。ここ最近は普通に女子会に呼ばれて恋愛相談とかされる。友達の幅が広がって、いいことだと思う。モテたいという男性性から降りることで女友だちとも今までよりフラットになった。

 

おじさんがスナックに行く理由

せやろがい 最近、清田隆之さんの「さよなら、俺たち」を読んで、対談イベントもした。セックスについてのくだりがあり、「なぜ男はセックスしたがるか」その感情を因数分解すると、身もふたもない触りたいという本能的なところもあるが、女性に受け入れられたい、コミュニケーションを密にしたい、分かり合いたいという気持ちがある。コミュニケ-ションしたいとか、分かり合いたいとかはセックスでなくても満たせる。女の子たちとお茶するだけで、セックスで満たしたいことのいくつかは満たせると書かれていて。「はっ、なるほど!」と。僕の中で発見だった。

モバプリ つながりたいに加えて、弱音を吐きたいんだと思う。「男らしさ」の裏側には弱い姿があって、それを表で見せられない。それでおじさんたちはスナックとかに行って落ち着くんだろうなと。地元のスナックにたまに行くが、グチグチしているおじさんたちを見るのは興味深い。酔っ払って、情けない弱い姿を見せているところと普段とのギャップが面白い。弱いところを普段から見せていれば酒を飲んだ閉じた世界でこうしなくてもいいのにと思う。

せやろがい 弱音を吐くのは男らしくないという価値観があるんだろう。酒を飲んで、たがが外れないと弱みを見せられないというきつさがあったのだろうなと想像できる。 

モバプリ さかのぼると体育会系のスポ根的な、さらにたどると軍隊に至るのかなと。軍人の「日本男児たるものが今の男らしさの源流というか。それが居心地がいい人もいるだろう。そうじゃない繊細な人や体より頭を使いたい人、いろんな人がいる。画一的なところに押し込められるとつらい人は出てくる。

(後編に続く)


 番組の紹介 

せやろがいおじさんが配信するYouTubeラジオ番組「コネラジ」

毎週月曜から金曜の18:30~19:00に幅広いジャンルの話題を生配信中。

モバイルプリンスさんは毎週月曜日に出演。

せやろがいおじさんとモバイルプリンスさんが出演するYouTubeラジオ番組「コネラジ」はこちら。

 

YouTubeラジオ番組「コネラジ」の様子

【関連動画】

国際男性デー企画・せやろがいおじさん×モバイルプリンス対談「男の生きづらさって? 古い価値観アップデートしていこ!」

 

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