国際男性デー企画「男の生きづらさって?古い価値観アップデートしていこ!」せやろがいおじさん×モバイルプリンス対談(後編)


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国際男性デーに合わせて行った、せやろがいおじさん×モバイルプリンスの「男の生きづらさ」対談。前編では、男性が「生きづらさ」を語る危うさや、「男らしさ」を競い合う土俵から降りた自身の経験などを語り合った。後編では、ジェンダーギャップ(男女格差)のある社会で「生きづらさ」を抱える人たちの連帯、そして「生きづらさ」を感じたことのない人たちにどう伝えていくかなどを話した。前編はこちら。          

                                                                  (文中敬称略)

聞き手・編集=慶田城七瀬、仲村良太、黒田華
撮影=又吉康秀

「特権」ある僕らから変革を!

せやろがいおじさん(以下せやろがい) 男性社会の中でも「俺たちって特権的な立場で女性を虐げたことあるよね」ということに気付けたら(これまでを)顧みてアップデートしないといけない。そういう場面はこれから増えると思う。ちょっと被害者ぶった言い訳かもしれないが、我々も無意識に特権立場から女性を虐げたり特権を行使したりしてきた。それは刷り込まれてきたものだ。

お笑い芸人をしていた当時のモバイルプリンスさん

 無意識に刷り込まれたものに向き合わないといけない。「男性の生きづらさ」を語るのはこの作業からやらないと。ストレスのかかる作業になるだろうとは思う。清田隆之さんの「さよなら、俺たち」、韓国小説の「82年生まれ、キム・ジヨン」とか、松田青子さんの小説「持続可能な魂の利用」とか。男性優位社会の中における女性生きづらさを浮き彫りにした本を読んで、「やってたな俺。男性として向き合わなアカン」と突きつけられて落ち込んだ。

モバイルプリンス(以下モバプリ)清田さんの本は「うぅっ、俺のことだ…」とページをめくるたびに爪をはぐような思いをした。

せやろがい 僕らが生まれた時代にジェンダーギャップが平たくなっていたとしたら、価値観のアップデートはいらなかったかもしれない。でもこうなったら、向き合わないと。

モバプリ 高校生と接することが多いが、今どきの高校生は私たちの世代と感覚が違う。完璧に平等ではないにしても、ジェンダー意識が違うと思う。私たちの若いときは男同士で仲がいいと「デキているのか」と冷やかしたりするノリがあった。今の10代、20代の子は、そんな感じのノリがないかも。性には多様性があって、誰が誰を好きになるかは自由と。アップデート済みで生まれてきている感じ。30代はアップデートしないと、近くで稼働している古いOSみたいな感じ。

高校生にキャリア講演する榎森さん

せやろがい 高校生の前で講演すると感覚の変化を感じる。今は性的マイノリティーのポップアイコン的な存在もいて、抵抗なく理解が進んでいる。ただ、世の中の仕組みは変わっていなくて、ジェンダーギャップも残っている。「選択式夫婦別姓」の機運が高まっているが、いまだに女性が男性側の姓に変えるのがほとんど。手続きに手間やお金がかかって、女性に一方的に負担がある。それにも関わらず、高校生に「男性の姓になるのが当たり前だと思う人は?」と聞くとバーッと手が挙がる。男性の特権が当たり前という感覚が若い世代にも刷り込まれている。

モバプリ 僕は結婚して子どももいて、「モテ論争」では事実上の終戦。一方で、女性にモテない、結婚していない、周りからなぜ(結婚)しないと言われ続ける人たちもいる。沖縄なら仏壇問題とかもあって、親族からプレッシャーをかけられたり、独身というだけで人格まで否定されたりすることもある。「あの年で結婚しないなんて問題あるんじゃないの」と。男女問わず言われる。しょうもないと思うし、結婚してもしなくても、その人らしければいいと思う。でも、既婚者の自分が言うと「結婚しているからお前はいいだろ」と返されたりする。

 

「どちらがつらいか」より手をとろう

モバプリ 女性の生きづらさの問題が話題に上ると、それを帳消しにしようとするかのように「男性の自殺率」とかを出してくる人たち、「男性の方が社会の被害者」みたいなことをいう人がいる。

せやろがい 生きづらさ合戦みたいになって、より生きづらい方が主張して良し、みたいな。俺よりお前ましやろ、黙っておけとなるとやばい。今回のように男の生きづらさを語る企画にも含まれる危うさ。「女性」対「男性」の構図は作りたくない。男性でも女性でも、一人一人が生きづらさを訴えて「ジェンダーギャップがあってしんどい社会」対「ギャップをなくしていきたい人たち」という対立構造になればいい。

モバプリ 「男性の方が生きづらい」と言う人がいて、その人の生きづらさは本当だと思う。モテない、お金ないと、周りから言われて自己肯定感が低まったケースもある。そのときに「女性のほうが大変」と言われると、女性は助けてくれる人もいて非モテ男性よりいいだろうと思う心はうそじゃない。「いやいや、だけどジェンダーギャップ指数では…」とファクト(事実)を出しても、その人の生きづらさは救えない。ファクトを根拠に女性の生きづらさを突きつけられたとき、フェイク(うそ)なのに「痴漢えん罪で男性は被害者になって示談金を取られて…」という事例を言ってしまったりする。これはデリケートなところで表現が難しいんですが。

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モバプリ フェミニズム運動は女性が主体。男同士が連帯して生きづらさに共感して解消する「脱ホモソーシャル」というか、フェミニズム運動と合流してもっと大きい輪になって、「男らしい・女らしい」とかではない、人間らしく生きようという流れになってほしい。男同士の連帯の中で、「優しさ」という男が男に優しくする運動自体をやってこなかった。生きづらさを抱える男性に対して男性から手を差し伸べ、一緒にコミュニケーションをとって合流しようというのはありだと思う。

せやろがい さしくその通りだと思う。ジェンダーギャップのある状況を変えるために男性から行動を起こすのも大事。最近、朝鮮学校の学園祭にメッセージを寄せてほしいと依頼があって、(学校に)いやがらせをする人がいて生徒や教員を励ますメッセージを、と。その中で「国境とか人種とか民族とか関係ないで」と書いたら、先方から変えてほしいとお願いされた。(メッセージ自体は)その通りだが、特権的なマジョリティな立場である僕が言うのは違うんじゃないかと納得した。男性側が生きづらさを解消しようという前に、やっぱりまず今は男性が特権的な立場にいることを自覚する。この作業から逃れてはいけない。

 

「モテ」のポイントは変わってきたのか?

対談では、2人の示唆に富む内容に同席した記者も質問を投げかけた。

オンライン対談の様子を取材する本紙記者

仲村良太記者 女性に「モテる」ことについて。男性が男性性を強調することは結婚や女性と付き合う時に、アピールポイントに結びつくと思う。このアピールポイントは変わってきているか?

せやろがい まだ残っているのでは。「より稼ぐ男がより良い」というところ。性的マイノリティーへの理解が進むなどしている一方で、数値で(人の価値を)見るのはもっと拡大している気もする。

モバプリ ツイッターのフォロワー数とか。

せやろがい 数字に対する価値は高まっている気がする。例えば年収って数字で表れる。若い人はよりしんどい気持ちになっていないかな。前にモバプリさんとも話したが、日本経済がしんどい状況で、貯金ゼロの人も増えている中で、インフルエンサー的な人たちのマッチョなオンラインサロンが若者に人気がある。お金を稼ぐ勉強をするぞ!と。「自己責任」という言葉が飛び交って、うまくいっていないのは自分のせいだ、うまくいく自分にならねばならないと、下の世代が追い込まれていないか。

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モバプリ 自己啓発とかのオンラインサロンを見ると、主催側は商売のためだけではないにしても「自己責任論」「自己投資」「本をいっぱい読んで人脈を」「稼ぐことが全て」と考えている若い子もいる。一方で、SDGsや多様性、ジェンダーや歴史などお金にはならないけど「人権尊重」「生きやすい社会にしたい」という若い子も。両者ともSNSで可視化されて、どっちも目立ちやすい。

せやろがい 本質的なものは変わっていないのでは。自己肯定感を他人の評価に依存しているところがあると思う。他人からこんな評価あれば自分は生きていていいとか。本来は違う。人からどう思われていても自分は自分で価値があると思えることが大事。ジェンダーにおいても、ジェンダーの役割や価値を基に自己肯定感を低めているところがある。自分の価値を自分で決められなくなると、しんどいなと思う。

 

アップデートした人をリスペクトする風潮に

書籍を手にするモバプリさん

黒田華記者 「生きづらさ」を感じていないという男性もいる。そういう人にはどう伝えたら良いか。

せやろがい 端的には難しい。(男性性の特権や加害性を)顧みたりアップデートするのはストレスで、「うっ」となる。1人では向き合いきれないところもある。僕がアップデートを促すときには「あんたたちアップデートしないと駄目だよ」ではなく、「一緒にアップデートしていきませんか」というトーンにしている。怒られているというより、誘われている感覚にしたいと思う。でも女性の側にそれは求めない。「優しい言い方して」というつもりはない。

モバプリ いわゆる「おじさん」たちにどう伝えるか。おじさんたちは(男性として生きている)時間も長いし、価値観が固められているので抜けにくい。大きい組織はPTAでも自治会でもトップは男性であることが多い。議会も。人権の大事さ知っているはずなのにジェンダーになるとバグる。女性に役割を押しつける家父長制(年長者の男性が強い権限をもつこと)の組織で、人権を訴えているのは絶望的だよなと思う。

キングスTシャツの榎森さん

慶田城七瀬記者 今回は「国際女性デー」の後続企画として取り組んだが、「男性もつらいんだよ。我慢しろ」という女性へのメッセージにならないにはどうしたらいいかと悩んだ。社内の男性からも「生きづらさってどういう意味?」と問われたり。ジェンダー問題について女性側から声を上げることも大事だが、意思決定のポジションに男性しかいない場合、男性を動かすにはどうしたらいいか。

せやろがい オンラインサロンをやっていて、アップデート主義を掲げている。僕のサロンは何も知らない男(せやろがいおじさん)が専門知識のあるメンバーに教えてもらうという内容。サロン主が教えるのではなく「教えられる」のは珍しい。アップデートした人の価値が高まる風潮を作っている。指摘や批判があればアップデートのチャンスと捉えている。自分だけじゃなく参加者も含め「こういうところが間違っていたかもしれませんね」と言えたらナイスアップデート!とリスペクトを込める。欺瞞(ぎまん)ぽいかもしれないが、アップデートするストレスと向き合って新しい自分を見つけられた人には、リスペクトが集まる風潮になれば(アップデートに)ポジティブに取り組めるのではないかと。

 

~プロフィール~

せやろがいおじさん

榎森 耕助(えもり・こうすけ)1987年、奈良県出身。2007年にお笑いコンビ「リップサービス」を結成。時事問題などに鋭くツッコミを入れる「せやろがいおじさん」として、ユーモアと風刺を交えた笑いをYoutubeで配信する動画が多くの人の共感を呼ぶ。初の著書「せやろがいではおさまらないー僕が今、伝えたいこと聞いてくれへんか?」を刊行。

 


モバイルプリンス

モバイルプリンス(島袋コウ) 1987年、沖縄市出身。お笑い芸人・携帯電話ショップ勤務の経験を活かし、スマホ・ ネット活用の方法を楽しく、分かりやすく伝える。琉球新報での連載をはじめ、 「サイバー防犯PR大使」として県内外で活動中!著書「しくじりから学ぶ 13歳からのスマホルール」を初出版。せやろがいおじさんとYouTubeラジオ番組「コネラジ」で出演中。

 


 番組の紹介 

せやろがいおじさんが配信するYouTubeラジオ番組「コネラジ」

毎週月曜から金曜の18:30~19:00に幅広いジャンルの話題を生配信中。

モバイルプリンスさんは毎週月曜日に出演。

せやろがいおじさんとモバイルプリンスさんが出演するYouTubeラジオ番組「コネラジ」はこちら。

 

YouTubeラジオ番組「コネラジ」の様子

【関連動画】

国際男性デー企画・せやろがいおじさん×モバイルプリンス対談「男の生きづらさって? 古い価値観アップデートしていこ!」

 

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