「出るんですよ」半藤一利さんが沖縄に来なかった理由とは 「歴史探偵」を悼む


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半藤一利さん=2015年

written by 島 洋子

 作家の半藤一利さんに初めてお会いしたのは2015年、半藤さんが講師を務めた小さな勉強会だった。

 当時、安倍政権は集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法を制定し、沖縄では名護市辺野古の新基地建設に反対する翁長雄志知事と対立していた。昭和史を題材にした著作で知られる半藤さんに、歴史の流れの中で今の日本や沖縄をどう見るか伺いたかった。聞けば沖縄を訪問したことがなく、講演依頼もノー。理由は「出るんですよ」。「戦士の遺書―太平洋戦争に散った勇者たちの叫び」の執筆中は3人ほど出たそうだ。「コツン、コツンと階段を上がる音がして、上から霊ががーっとかぶってくる。『分かった、きちんと書きますから』と叫んで起き上がる」

 東京向島の出身で東京大空襲を経験した。焼夷(しょうい)弾が風を切り、ごう音と炎が猛(たけ)り狂う中、死体の間を逃げた14歳は、戦争の恐ろしさを刻みつけた。焼け跡で湧いた「なぜ戦争が起きたのか」という疑問を「日本のいちばん長い日」などの著作に結実させた。

 15年末に本紙の富田詢一社長(当時)と対談してもらった。「辺野古(新基地)は翁長さんが勝った瞬間に見直すのが当たり前」「『琉球処分』以上のことをしている。戦後民主主義は民意が第一だ」と明確に批判した。沖縄戦については「調べれば調べるほど、沖縄の人には申し訳ないが、日本本土を守るための実に拙劣なる作戦だった」と話し、「反省なき陸軍」を責めた。

 「出る」と話した霊とは、戦死者への畏怖とともに「あの戦争を忘れてはならないというメッセージ」だと心に彫り込んでいたのではないか。「沖縄の運動は自発的に郷土を思って立っているのがよく分かる」と語った半藤さん。やはり沖縄を見てほしかった。
(編集局次長)