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<沖縄の闇社会を追う1>「桜を見る会」に現れた半グレと業界再編


この記事を書いた人 Avatar photo 嶋野 雅明

written by 斎藤 学

 

那覇市内の繁華街

 ある捜査機関が作成した資料が手元にある。それを基に捜査関係者の一人が語る。「大きく様変わりするってこと。業界再編とも言えるし、裏社会の世替わりだ」。ヤクザ、暴力団が衰退の一途をたどる背景で、半グレといわれる、新たな組織暴力の勃興(ぼっこう)ぶりについて説明する。資料によれば、半グレ組織は沖縄社会の裏社会にとどまらず、既に表社会に進出の足場を築いていることが明らかだ。飲食店やレジャー業といった正業への進出はもとより、政財界をも蝕む地歩を固めている。県内には、捜査機関がこうした半グレと見るグループが複数あると指摘されている。まずはそのうちの一つを束ねた、ある人物から、その実態の一端を見てみたい。

「地産地消」の場で乱闘

 昨年の後半に入った頃。那覇地裁の法廷に、ある男が警察官3人に引致されてきた。仮にAとしておく。背丈は170センチ前後ぐらい、クリーム色のワイシャツ、ダークグレーのスーツ姿だ。胸板が厚く、恰幅(かっぷく)がいい。Aは沖縄県内の捜査機関が「半グレ」のリーダーとしてリストアップした人物だ。

 半グレとは何か。おおまかに定義しておく。警察庁は「半グレ」を準暴力団と位置付けている。かつては「オレオレ詐欺」などといわれた特殊詐欺事件などに少数の仲間内で手を染めるケースが多かったが、いつしか犯行は組織的な様相を呈し始めた。流れ者をリクルートするグループもある。組織化された犯行により、薬物や闇金などにも職域は拡大し、被害は広範に及ぶようになった。このことから、その実態解明が喫緊の課題となり、警察庁は犯罪摘発を進めるよう全国の警察へ通達している。

 大半のグループの組成要員は暴走族や不良少年の集団とされている。社会に対してくすぶる不満や鬱憤(うっぷん)のはけ口は、暴走行為など迷惑行為では飽き足らず、いつしか実利の獲得へ、シフトしていった。それはちょうど暴力団対策法などで、法の網にがんじがらめにされ身動きの取れない暴力団の衰退と入れ替わる格好だ。そして同じようなやり口を模倣して肥大化させ、集団化してきた。

 実利を得るのはもっぱら根城とする繁華街が中心だ。こうした半グレがクローズアップされ、世間の耳目を集めたのが、2010年に発生した歌舞伎俳優・市川海老蔵さんの事件だ。元暴走族の男らに暴行され、男らが所属していた半グレ集団「関東連合」の存在が広く知られるきっかけとなった。ちなみにこの事件に関わり、一躍名をはせた中心人物の男が那覇市松山で2018年、地元指定暴力団と乱闘騒ぎを起こしたことは知る人ぞ知る。どんな意図が、この男にあったのか。そのときの模様がインターネット上の動画サイトでもアップされ、拡散したことで注目を集めた。

沖縄県警本部(資料)

「沖縄県警は感謝してほしい」

 この男は、実は18年の乱闘騒ぎ以前にも、沖縄をたびたび訪れていた。県内で以前からトラブルを起こし、地元組織から動向を監視されていた。乱闘騒ぎの時には本格的な沖縄進出を狙い、とある物件の契約寸前だったと地元の指定暴力団関係者はいう。

 地元がしのぎの場とする繁華街は、妙な言い方だが地産地消の場でもある。えたいの知れない県外勢力のよそ者に禄を食(は)まれては食い扶持にもかかわる。それを警戒して地元の指定暴力団は巡回の当番制で、この男の行動に目を光らせていた。地元組織幹部は「その巡回の網に男はひっかかり、騒ぎに発展した」と顛末(てんまつ)を話す。

 聞くと、この松山での乱闘騒ぎの顛末は、県内の地元暴力団となじみのある県外の指定暴力団幹部が仲介に入って地元団体と手打ちとなった。究極の尻ぬぐいは結局、そうした界隈に持ち込まれ、裁定されているのだ。この幹部は「県外組織の進出を阻んでいるのは県警ではない。うちらがやっている。感謝してもらいたいくらいだ」と言う。警察が半グレを準暴力団と位置付けるのも、そうしたゆえんがある。

 半グレの中には指定暴力団などを後見人として、あるいは紛争解決人として関係を持つグループがある。何らかの利害関係やトラブルが発生した際の調停機能の役割を果たしている。とはいえ、その調停機能もいずれ新興勢力の半グレからすれば、煩わしいと思う時が来る。いやがおうにも新陳代謝は進む。裏社会の勢力図が半グレに塗り替えられる時に、抗争など大きなトラブルに進展しかねないと捜査関係者は警戒を強めている。

ホテル屋上のカメラ目線

 話を元に戻す。生まれ育ちが関西方面のAは、格闘技関係の興行にも従事していた。数十人規模で立ち上げた格闘技団体は、捜査機関の作成した資料によれば、興行で得た売り上げが一時は数千万円にも上ったという。既存の組織暴力団からすれば面白いはずもなく、いつしかAの団体は「出る杭」となっていた。

 7年ほど前にAは沖縄へ生活の拠点を移しているが、理由がこうした既存組織との摩擦が原因なのかは不明だ。移り住んでからの生業の多くは県内離島での飲食業などだが、本島の繁華街にも飲食店を出店した。いつの間にか離島のほか、那覇にも活動拠点を設けた。関西方面での学習効果が表れたのか、県内の組織暴力団との親交は厚く、地元暴力団の複数の幹部がAを「ちゃん」付けで呼び、いかにも親しげだ。

 その親交の厚さぶりの一端が公然明らかになったのが、皮肉にも国内政治で浮上した問題に絡む一枚の写真からだった。写真には海外のホテル屋上にあるとみられるプールで男の一団がカメラ目線で写っている。うち数人の上半身には独特の文様の彫り物が明らかだ。Aとともに写り込むのは地元指定暴力団の幹部だった。その幹部に聞くと「シンガポールに行った際の写真だ。偶然会っただけだ。こんな写真でAと俺とのつながりを示したかったんかな」と言う。

「桜を見る会」を主催した安倍晋三前首相

「桜を見る会」に参加

 この幹部の言う写真とはネット上で出回った電子版の暴露ビラにプリントされた一枚だ。ビラは安倍晋三首相(当時)側が、自身の後援会会員らを大量参加させていた「桜を見る会」の内幕を告発している。その中に桜を見る会の会場で政権幹部と写真に収まるAがいる。桜を見る会は、安倍首相側の公私混同ぶりが問題視された。その一方で暴力団にもつながるAら「半グレ」も参加者に含まれていたことを主に指弾する内容だ。Aらと暴力団幹部とのプールでの一コマを併せて掲載することで、桜を見る会が裏社会にもコミットしている現実、関係性をさらしたのだ。

 桜を見る会の開催趣旨は「各界において功績、功労のあった方々を招き日頃の労苦を慰労するため」などとある。捜査関係者は「各界の中には裏業界も入っていたんだ。その悪徳、悪行も慰労するとは噴飯もの」とあきれ果てる。半グレ参加の証拠として何者かが掲示した写真は今もネット上でさらされ続けている。

<続編(3月1日公開予定)>「桜を見る会」出席したカラクリ


斎藤 学

1965年生まれ。埼玉県出身。北海タイムス記者を経て琉球新報記者。社会部、政経部などで主に事件や地検・裁判を取材。現在はニュース編成センターに所属。


沖縄発・記者コラム 取材で出会った人との忘れられない体験、記事にならなかった出来事、今だから話せる裏話やニュースの深層……。沖縄に生き、沖縄の肉声に迫る記者たちがじっくりと書くコラム。日々のニュースでは伝えきれない「時代の手触り」を発信します。