<書評>『南城市の沖縄戦 資料編 証言編―大里―』 証言を丁寧に語りつなぐ


社会
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『南城市の沖縄戦 資料編 証言編―大里―』 専門委員会編 南城市教育委員会文化課市史編さん係編 南城市教育委員会・資料編4000円(証言編は本年度中に一般販売予定)

 市町村史による「沖縄戦」書はどこまでバージョンアップするのだろう。「南城市の沖縄戦 資料編」(2020年)「― 証言編」(21年)は両書とも市民が手に取りやすい工夫がされている。「資料編」はカラー版で、気難しい資料を読者が気後れすることがないよう、旧字体を新字体にあらためている。米軍の「作戦報告書」を和訳でひも解き、知念半島の戦場を彼らの視点で見ることができるのは画期的なことである。また疎開船対馬丸に家族を乗せ、撃沈を知った渡名喜元秀氏の日記は心が痛い。

 もう一つの「証言編」は、これまで調査が不十分だった旧大里村79人の証言を端緒に、「資料編」を編集するにあたって掲載できなかった南城市出身者の証言、34年前に大里村役場がまとめた「私の戦争体験記」(1987年)という小冊子の再掲という三部構成になっている。

 熟成された「私の戦争体験記」にとっては貴重な復刻版と言ってもいい。証言を埋もれさせることなく、新たな証言とブレンドすることで市民の戦争体験がより深みを増す。また、市民が「証言集」を手に取ろうとする際、どこの誰の証言が載っているかは大切なポイントだ。本書は区域ごとに編集し、タイトルに証言者の名前をあて、どの区の誰の証言かがすぐに分かるようになっている。それは語ってくれた戦争体験者と非体験者である市民を語りつなげようとする南城市の姿勢であろう。

 日本政府は、多くの人々が戦没した南部地域の土砂を辺野古新基地建設に利用しようと考えており、沖縄の人々は人道上許せるものではないと憤る。「資料編」の「『平和の礎』戦没者名簿の空間分布復元」では、南城市民の多くが45年4月~7月の間、知念半島から摩文仁・喜屋武岬にかけて犠牲となったことが一目で分かり、その惨状は「証言集」で知ることができる。なぜ沖縄が憤っているのか、沖縄県民だけでなく日本政府・全国の皆さんにも手に取ってほしい良書である。

(川満彰・名護市史編さん係会計年度任用職員)


 「南城市の沖縄戦 資料編」専門委員会 普天間朝佳(ひめゆり平和祈念資料館館長)、宮城晴美(県史編集委員会副委員長)、吉浜忍(県史編集委員会委員長)ら18氏で執筆を担当した。