最低賃金アップ「一律は厳しい」「発展へ格差是正を」 労使代表に聞く


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 2021年度の最低賃金改定を巡り、労使の協議が大詰めを迎えている。中央最低賃金審議会は全国で一律28円引き上げる過去最大の引き上げ幅を答申し、各都道府県の地方審議会では28円増を目安に審議が進められている。ただ、答申は全会一致とはならず、コロナ下での大幅引き上げに経営側の反発がある。沖縄地方最低賃金審議会(島袋秀勝会長)は、6日にも沖縄労働局の福味恵局長に答申する。現在の沖縄の最低賃金は792円。今回の議論の焦点や、コロナ下の適正な改定額などについて、県内の労使関係者に聞いた。(聞き手 呉俐君)


<県商工会連合会・米須義明会長>コロナ下で厳しい

県商工会連合会の米須義明会長

Q.全国一律28円の引き上げをどう評価するか。

 「コロナ下で中小企業が厳しい状況の中で、全国一律28円とは少し乱暴な決め方だと受け止めた。県内企業の99%は中小企業であり、そのうちコロナに影響されやすいサービス業が7割以上を占めている。売り上げが減っている中で、経費だけが上がっていくのはアンバランスだ。全国一律28円に疑問を感じている」

 「賃金の上昇を反対しているわけではないが、企業の成長に見合った賃金上昇を求めたい。適正な賃金でないと、逆に雇用環境が悪化し、企業の存続にもかかわってくるので、ぜひ慎重に検討してほしい」

Q.目安通りの28円なら過去最高の増額幅になる。妥当な上げ方か。

 「増額幅が大き過ぎる。沖縄の最低賃金は現在時給792円で、28円は全体の3・5%を占める。この上げ方はいきなり過ぎる。1%など段階的に上げてほしい。経費を生むには利益がないといけない。28円の負担が大きい」

Q.今回の地方審議会で議論の焦点は何か。

 「コロナ下での審議が一番の焦点だ。コロナが発生する2年前であれば、(企業側は)最低賃金以上を出さないと従業員が集まらなかった。そういう時代であれば、賃金の上昇は仕方がない。しかし、現状はわれわれ経営者も先行きについて不安がある。最低賃金を引き上げたら、これをずっと維持しないといけない。コロナ下で経営者が支えきれるかは不安が大きい」

Q.全国平均との最賃格差を埋めるために、企業側が努力すべきところは。

 「生産性の向上しかない。国の助成や県の政策がないと、(生産性も)上がっていかない。困っているのは労働者側も使用者側も一緒だ。互いが助け合えるような形で本年度の最低賃金を決めてもらいたい」


<県労連・穴井輝明議長>全国一律は評価

県労連の穴井輝明議長

Q.全国一律28円の引き上げをどう評価するか。

 「ここ4~5年間で見ると頑張っている。しかし、これまでが低すぎるだけで、本来であれば100円もしくは200円単位で上げるべきだ。今回(目安が)全国一律で上がったのは一つの評価としてできる。東京と地方の格差はいつまでたっても埋まらないので、一律は当然だ」

Q.今回の最低賃金改定の議論で焦点となることは。

 「最低賃金は、(労働者が)暮らせる水準かどうかという観点から見るべきだ。県労連は昨年、沖縄で最低限度の生活ができる賃金について調査した。25歳の独身男性で時給が1624円、女性が1662円という結果が出た。沖縄の最低賃金を28円引き上げしても時給820円にとどまる。少なくとも1500円が必要だ」

Q.1500円に近づけるための努力は。

 「労働者は今までいろいろな所を切り詰めて暮らしている。海外旅行や映画観賞など文化的な部分を我慢して生活している。普通の生活をしていくには、労働者側の意識改革も必要だ。労働組合が先頭に立って運動しなければいけない」

Q.コロナ下での賃上げは企業にとっても厳しい。

 「政府は中小企業を守る手だてが必要だ。事業者と労働者が折半している社会保険に国がきちんと補助を出すほか、中小企業の税金を安くするなども手法として考えられる」

Q.全国平均との最賃格差は依然としてある。

 「沖縄が発展していくには賃金の格差はあってはいけない。全国一律の最低賃金にしないと、住む場所が選択されて、過疎化と人口の集中がどんどん進んでいく。沖縄は最低賃金の全国最下位脱出を目指すのではなく、最下位を作らないことが大事だ。人間として人間らしく生きるために賃金の保障が求められる」