遺族の苦しみ伝える 飲酒18歳熱中症死亡、報道被害の回避を議論<取材ノート・新聞週間2021>


社会
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「息子は今も苦しんでいるのでは」と、仏壇に手を合わせ少年の死を悼む両親=9月、本島南部(画像の一部を加工しています)

 今年7月、本島南部で少年(18)が集団飲酒後に友人の運転していた自家用車内に取り残されて、熱中症で死亡する事案が発生した。少年の両親は当初、取材に応じられる心理状況になかったが、取材依頼から約1カ月たったころ、ようやく心境を語った。両親は変わり果てた姿の息子を発見した時の状況を振り返り、声を震わせた。「すぐそこなんですよ。チャイムさえ鳴らしてくれれば」

 少年が亡くなった車は少年の自宅からすぐ近くに止められていた。少年らは飲酒運転で移動しており、飲酒という非行事実の負い目も、周囲へ助けを求めなかった一因だった。友人らは会員制交流サイト(SNS)に飲酒の様子などを写した動画を投稿していた。動画からは少年の体調の様子がみてとれた。故意ではなかったが、友人らから適切な介助や治療を受けていれば最悪の事態は防げた可能性も示唆され、遺族感情を傷つけることにつながった。

 記事は、遺族の苦しみを伝える一方、亡くなった少年とともに飲酒した友人の個人非難につながる恐れもあった。社内では掲載される前から、少年への報道被害を考えて、SNSの記述などを控えるべきだという声があった。朝刊の紙面構成を話し合うデスク会議でも、記事の大きさや取り上げる内容についてデスク同士で意見が分かれた。

 個人を特定できないような文言にしたが、掲載後には「扱いが大きすぎではないか。少年への影響が大きすぎる」などと社内から批判もあった。瞬時に拡散するネットニュースでは紙面の内容を一部削除したり、有料記事のみで見られるようにしたりした。それでも、ネットの掲示板には友人や家族、亡くなった少年などへの罵詈雑言(ばりぞうごん)が飛び交った。

 今回は飲酒の場にいた少年に取材して顔を知っており、連絡を取ることができた。その上で、記事は遺族の思いだけでなく、沖縄が抱える飲酒という問題を浮き立たせることができると考えた。記事は書かれた人の人生を変える力がある。その重みを忘れずに、社会の関心に応えるようなニュースを伝えたい。
 (古川峻)