貧困が子どもの権利侵害 支援者らが現状や課題報告 セーフティネットがオンライン勉強会


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 子どもの貧困をテーマに現場から現状や課題を報告し、参加者と意見交換するオンライン勉強会「事業がはじまる前と後」(沖縄セーフティネット協議会主催)が9月22日、24日、28日に開かれた。各回2人ずつの講師を招き、参加者と意見交換した。各回の詳しい内容を3回に分けて紹介する。初回は「『人権』から考える」をテーマに、弁護士でNPO法人子どもシェルターおきなわ理事長の横江崇氏が「なぜ、いま子どもの権利か? 子ども問題に関わる弁護士の視点から」、一般社団法人沖縄ダルク施設長の佐藤和哉氏が「社会的なスティグマを乗り越える仲間づくり―依存症者が地域社会で生活を獲得すること」と題して話した。

子どもも権利の主体 横江崇氏(子どもシェルターおきなわ理事長)

 

美ら島法律事務所弁護士でNPO法人子どもシェルターおきなわ理事長の横江崇氏

 居場所を失った10代後半の女性が安心して暮らせる短期間のシェルターを弁護士中心で運営している。弁護士としてスクールロイヤーなどもしている。

 権利は社会的弱者に関わる問題として捉えられることがあるが、権利は誰もが普通に生きていくために重要なものであり、大人も子どもも変わらない。子どもも権利の主体であり、独立した人格として尊重される必要がある。子どもと大人は対等なパートナーだが、子どもは指導される側、支配される側という固定的な支配関係から虐待や体罰が起きる。

 子どもには具体的にどんな権利があるか。自分のことを決める、友達と遊ぶ、安心して暮らすなど、みな権利だ。子どもが生きて成長するにはさまざまな権利が、すべての子どもに保障されなければならない。この権利が侵害されていることこそ貧困の問題だ。

幼少期、家庭環境重要 佐藤和哉氏(沖縄ダルク施設長)

 

精神保健福祉士で一般社団法人沖縄ダルクの佐藤和哉施設長

 依症者には社会的スティグマ(負のレッテル)が貼られ支援もなかった時代にダルクは東京で始まった。当事者が生活を共にして語りを通して経験を分かち合う。設立36年になり、全国に約90カ所ある。依存症者を刑務所に戻さないためには受け入れる社会が必要だ。しかし社会にはあらゆるところにスティグマが宿る。ダルクの名前を出すと賃貸物件も借りられず、依存症のことを知られて就職内定を取り消された人もいる。依存症者は尊厳を奪われ、自分には価値がないと大きな傷を負う。

 依存症には「なったのは本人の選択で、努力すれば立ち直れる」という誤解がある。だがダルクメンバーの半数は幼少期の家庭環境に貧困や暴力がある。尊厳の乏しさの結果としての選択だ。使用・再使用の責任をすべて本人に帰すのではなく、社会モデルから依存症を捉えることが大切だ。

司会の平良斗星さん
主催した沖縄セーフティネット協議会の糸数温子さん

<質疑>

恒常的支援体制を 横江氏

生きづらさ知って 佐藤氏

 参加者 家庭での権利保障をどう考えればいいか。

 横江氏 子どもを子ども扱いし過ぎず、支配しない意識を持つことだろう。親は愛情があるからこそ、年齢や本人の特性に合わない教育をやり過ぎてしまい、親子ともストレスを抱えるケースはとても多い。

 参加者 子どもの貧困対策が進められてきた。成果と課題は。

 横江氏 居場所や支援員が増え、ネットワークもできてきたが居場所ごとの温度差もある。課題を共有して克服できるといい。また事業予算が単年度で、恒常的な支援体制が組みづらい。一時的な貧困対策ブームにしないため、子どもの権利保障の施策にお金をかけるよう転換が必要だ。

 平良斗星氏(司会) 沖縄では飲酒で少年の保護観察が多いとあった。

 佐藤氏 少年犯罪は減っているが、保護観察の少年の割合が全国より高い。自分の人生を肯定的に捉えられない家庭環境に育ち、傷が癒えないまま大人になり、埋め合わせとして薬物やアルコールに出合う。依存症という属性ではなく、本人の語りを通して生きづらさや一人の人間としてその人を知ってほしい。