<書評>『「竹富島の種子取」を考える』 島の祭祀を構造的に分析


社会
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『「竹富島の種子取」を考える』阿佐伊孫良著 あけぼの出版・990円

 竹冨島はサンゴ礁の平島で畑地は貧しく、現在人口300人ほどだが、来訪者は年間50万人を超える民俗芸能の島、沖縄観光のシンボルの島として内外によく知られている。その基盤は1977年国の重要無形民俗文化財第1号になった種子取(たなどぅい)だ。

 本書は、1937年竹富島に生まれ、59年上京以来、東京竹富郷友会会長、東京竹富民俗芸能保存会会長、東京沖縄県人会事務局長の活動をしながら、故郷沖縄そして生まれ島竹富島への思いを一段と深くし、「農業しない竹冨島がどうして農耕儀礼の種子取を行うか」という問題意識から竹富島の種子取祭を研究し、78年に発表した論文をその遺稿集から単行本とした。

 72ページの冊子ながら、竹富島の起源から近現代までの歴史や祭祀(さいし)を構造的にとらえており、その視点や分析は時を経て今なお先進的で新鮮だ。沖国大名誉教授の狩俣恵一氏は、序文で「先祖代々の島人の精神性を考察した好著である」と刊行の意義を書いており、格好の種子取祭の解説書、竹富島の歴史文化ガイドブックとなっている。

 竹富島は、戦後の急速な人口流出による島の過疎化による衰退を、石垣、沖縄、東京の郷友会が島の伝統を支え、復帰前後には島を売らない活動も展開、竹富喜宝院の設立、86年の「竹富島憲章」の自主制定、全国竹富文化協会の研究活動など、その愛郷心が内外で高く評価され、87年には全国24番目という重要伝統的建造物群保存地区指定など、沖縄県の地域づくりの先進的な島となった。著者は97年帰郷し、島を守る活動に生涯をささげ、それを喜びとした。

 現在、コロナ感染防止のため各地の伝統行事や民俗祭祀の中止が相次ぎ、観光に大きく依存してきた離島村の地域振興は、コロナ後の次期沖縄県振興計画の緊急課題ともなる。本書には「著者 阿佐伊孫良の生前からの竹冨島への強い想いを尊び、本書の収益は竹富公民館へ寄付いたします。阿佐伊イチ」とのご遺族の意思が明記されているが、竹富人(てーどぅんひとぅ)の積極進取の愛郷心、沖縄の地域づくりの先頭で頑張ってきた竹富島からの早速のアピール本でもあるといえよう。

 (真栄里泰山・沖縄大学客員教授)


 あさい・そんりょう 1937年竹富島生まれ。竹富公民館館長、八重山地区老人クラブ連合会副会長など歴任。竹富町史の執筆に携わったほか、「竹富島の現状と課題」の寄稿もある。2014年死去。