里親解除「育てた子、いつ引き離されるか…」不安定な立場に波紋 「戻して」ネット署名に6万人賛同 沖縄


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厚生労働省が出した里親委託ガイドラインの最新版。里親制度を「子どもの健全な育成を図る有意義な制度」としている

 不安定な立場を嘆く声が広がっている。さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎え入れ、養育する里親制度。今月上旬、生後2カ月から養育していた児童(5)を、里親が反対する中で児童相談所が引き取る事案があった。里親委託を解除された那覇市の小橋川学さん(56)は、一時保護の委託先を小橋川さんのもとにするよう求める署名をインターネット上で募っており、26日時点で6万人超が賛同している。県内在住で別の元里親の夫妻が取材に応じ「子どもの最善の利益を壊し、苦しみを生む制度設計になっている」と指摘した。

 夫妻は里親として0歳の時から預かった子どもと特別養子縁組した。「里親は、いつ子どもがいなくなるか分からない怖さが常にある。でも何より怖いのは、子どもにとって、そばにいて自分を育てた人をいつ失うか分からないということだ」。女性は切々と訴えた。児童福祉法に基づいて子どもを預かる里親制度は、委託に実親の同意を必要とする。里親と子どもに法的な親子関係はない。実親の意向などで委託が突然解除され、里親のもとから離されることも少なくない。

 女性と夫は子どもを望んだが授からず、里親に登録。養育里親として0歳児を預かることになった。実子と違い、里子に育児休業などの制度は使えない。実家や地域のボランティア、職場の関係者らの助けを得てきた。

 迎え入れた里子は、とても小さく、気管支や肌が弱かった。毎晩、夫妻で代わる代わる抱いて寝かしつけた。衣食にも気を使い、良いといわれるものは全て試した。夫は「手探りだったが、覚悟を持って臨んだ。夫婦の宝物です」と目を細める。特別養子縁組の申し立てをし、家庭裁判所に認められ、法的な親子関係が成立した。子を迎えてから5年以上が経過していた。

 厚生労働省が2011年に出した「里親委託ガイドライン」では、特定の大人との愛着関係の下で養育される里親制度を「子どもの健全な育成を図る有意義な制度」とし、推進する方針が示されている。夫妻も登録時の研修で、愛着形成の重要性などを説かれた。

 特別養子縁組した子ども以降、里子は受け入れていない。打診はあったが、突然目の前からいなくなるかもしれないという不安の中で、もう一度子どもを育てられるとは思えなかった。「誰が毎日この子を抱いて眠り、誰が歌を歌い、誰が言葉を教えたのか。そんなに血縁を重視するなら、里親に頼るなと言いたい」と憤る。

 愛着形成を重視するとしながらも、いつ引き離されるか分からない現在の里親制度は、子の発達に悪影響を及ぼしかねないと感じている。ただ、里親は声を上げにくい。「子どもの委託を受けていると、児相の措置解除を恐れて発言できない」と指摘する。

 里親制度は、もっと子どもの意見が反映されるようになるべきだと感じている。「何より子どもの声を聞くこと。そして、その子を毎日育ててきた人の言葉を聞いてほしい」と望んだ。
 (前森智香子)