参院選と知事選は基地が争点化(波平恒男・琉大名誉教授)<名護市長選の結果を読む・識者の見方>4


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波平恒男・琉大名誉教授

 名護、南城両市の市長選挙は、自公勢力と「オール沖縄」勢力との対決だったが、いずれも自公の側が勝利した。

 中でも名護市長選は、オール沖縄勢力の退潮を印象づけるものだった。オール沖縄の推す岸本洋平氏は、辺野古新基地反対を前面に掲げ、建設阻止を強く訴えたが、相手陣営の一貫した「基地争点外し」の戦術の前に議論はかみ合わず、思惑通りに基地問題を争点化できなかった。

 逆に、再選された渡具知武豊氏は、保育料などの無償化による子育て支援の実績、市民生活の向上など、暮らしに密着した問題を細かに訴えたことが奏功した。

 岸田文雄政権の高い支持率や、コロナ禍で生活の先行きに不安や不透明感が漂う中、特に子育て中の若い現役世代を中心に暮らしの充実を重視する傾向が強まったことも、渡具知氏の側に味方したと言えるだろう。

 政権側は、今回の選挙結果を名護市民が新基地建設を受け入れたものと都合よく解釈し、あれこれ喧伝(けんでん)するだろうが、それは間違っている。基地には反対だが、名護市民が反対の意思表示をしても埋め立ては進むだろう。ならば、米軍再編交付金を活用した子育て支援などの実利を選ぶのもやむを得ないのではないか。そのような割り切れなさや苦渋の思いを抱いて投票所に向かった有権者も相当の割合でいたはずだ。

 選挙イヤー初戦での2勝は、自公にとっては今後の選挙への弾みとなろう。だが、参院選や県知事選などの全県的選挙では、基地争点が大きく浮上するのは避けがたい。自公はそれにどう対応するか。逆に、オール沖縄勢はいかに中間層や保守層の支持離れを防ぎ、その再取り込みにつなげるか。これが夏や秋の大型選挙の帰趨(きすう)を決めることになるだろう。
 (政治学)