知事一問一答(全文)


この記事を書いた人 謝花 稔

 翁長雄志知事は13日午前、仲井真弘多前知事が出した名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消した。翁長知事は同日午前10時に会見を開き「承認取り消しが相当であると判断し、沖縄防衛局長に対し、公有水面埋立承認取消通知書を発出した」と発表した。翁長知事の会見と記者団との一問一答全文は次の通り。

―埋め立て承認を正式に取り消した。率直な感想と受け止めを聞かせてほしい。
「知事就任から約10カ月、この問題は多くの県民や国民に見ていただきながら今日まで来たような感じがしている。前半はなかなか交渉すらできなかったが、4月ごろから閣僚と意見交換できるようになって、なおかつ1カ月間、集中協議でいろんな閣僚と議論することもあった。なかなか意見が一致せず、集中協議が終わったら工事再開するということだったので、取り消しの手続きを開始して本日、承認に対する取り消しを行ったところだ」
「思い返しても、なかなか沖縄の考え方、思い、そして今日までのいろんなことをご理解いただけるようなものがなかったような感じがしている。これからこういった裁判を意識したことが始まっていく。いろんな場面で私たちの考え方を申し上げて、多くの県民や国民、そして法的な意味でも政治的な意味でもご理解いただけるようなそういう努力をきょうからあらためて出発していこうという気持ちだ」
―承認の取り消しに至った理由について知事から説明してほしい。
「4年前(の知事選で)、県外移設を公約して当選した知事が埋め立てを承認してしまった。私自身からすると、そのこと自体が容認できなかったわけだが、法律的な瑕疵(かし)があるのではないかと。それは客観的、中立的に判断していただいて、そういった方々がどのように判断していただけるかということで、環境面から3人、法律的な側面から3人の(計)6人の委員にことし1月26日、お願いした。そして、7月16日に法律的な瑕疵があったと報告された。大変詳しく説明があった。私どももそれを検証した結果、法律的な瑕疵があると、県としても判断した。そういったことをベースにしながら、このような形で取り消しに至った」
―政府は即座に対抗措置を取るとみられる。県としてどう対応するか。
「法的な対応措置はいくつか考えられる。それを一つ一つ想定して説明するのは今この場所ではふさわしくないと思う。法律的な意味でも政治的な意味でも、県民国民がご理解いただけるようなことをしっかりと沖縄側の主張をしていきたい」
―沖縄防衛局は意見聴取には応じず、聴聞では陳述書を出したが、出席しなかった。あらためて今回の対応をどう思うか。
「集中協議のころから、溝が埋まるようなものが全くない状況だった。その1カ月間の集中協議の中でも、私どものいろんな思いを話させていただいたが、一つ議論がちょっとかみ合ったのは、防衛大臣との抑止力の問題だけで、それ以外は、閣僚側から意見というか反論はなかった」
「沖縄県民に寄り添い、県民の心を大切にしながらこの問題を解決する姿勢や気持ちがあの集中協議の中でもなかったわけだが、今回、取り消しの中で意見聴取あるいは聴聞の期日を設けてやったが、応じていただけなかった。陳述書は出してもらったが、聴聞には応じてもらえなかったことを考えると、防衛局の姿勢というより、やはり内閣の姿勢として、沖縄県民に寄り添ってこの問題を解決していきたいとの姿勢が大変薄いのではないかと感じるので、私どももあらためて協議の中から意見を申し上げたいとも思うし、あるいは広く県民、国民、あるいは米国や国際社会に訴える中でこの問題が解決していければいいと思う」
―取り消しの歴史的意義をどう考えるか。私人と同じ立場として審査請求しようとする政府の動きをどう捉えるか。
「今回、承認取り消しに至るわけだが、これは沖縄県の歴史的な流れあるいは戦後70年の在り方、そして現在の沖縄の過重な基地負担、0・6%に74%という過重な基地負担、こういったことなどがまずしっかりと多くの県民や国民の前で議論されることに意義があると思う」
「もう一つは日本国民全体からしても地方自治体が国に追い詰められると。私たちからすれば、日米両政府は大変大きな権力を持っているし、法律的な意味合いから言っても、大変大きな権力を相手にしているという感じがしている」
「基地問題は沖縄が中心的な課題を背負っているわけだが、これから日本という国全体として一県またはある地域に、こういったことが起きた時の日本の将来の在り方について多くの国民に見てもらえるのではないかと思っている。一義的に沖縄の基地問題あるいは歴史等々を含めたことだが、日本の民主主義というものに対して、国民全体が考えているとなればいいのかなと思っている」
「法律的な面は、私がここで答えると間違ってもいけないが、ただ、今日までよく言われていることに対する質問なのでお答えしたいと思う。私人として、国が訴えるというのは、私たちからすれば、条文上、それはできないだろうと思っている。それから、国が同じ国の中で、そういったものに判断を下すというものも、国と地方自治としても、いろんな意味合いからしても、多くの方が疑問に思うのだろうと思う」
―日米安保とその負担の在り方について、本土の多くの国民に何を分かってほしいか。
「この1年といってもいいし、この数十年といってもいいが、0・6%の面積に74%という過重な負担を沖縄は負わされてきた。なおかつ、戦後の二十数年、日本国から切り離されて、日本人でもなくアメリカ人でもなく、法的に守られるものもなにもないまま過ごした時期もあった。そういった中で、沖縄は何を果たしてきたかというと。私が自負もあるし、無念さもあるというのは、日本の戦後の平和、あるいは高度経済成長、そういったこと等を、安全保障とともに、沖縄が保障をしてきたというような部分が大変多大だと思っている。その中で、沖縄県民の人権や自由や平等、民主主義が認められるようなところがなかったということがある」
「これはひとえに、沖縄一県に抑止力を含め、基地の問題は閉じ込められて、本土の方々に理解してもらえなかったことがあるかと思うので、私は昨年の選挙では『日本国民全体で日本の安全保障は考えてもらいたい』ということを強く訴えた。そして一県だけに、安全保障を押し付けるということそのものが日本の安全保障にとっては大変に心もとない。やっぱり日本全体で安全保障を考えるという気概がなければ、日本という国が、おそらく他の国からも理解されないだろう、尊敬されないだろうという話もしてきた。大変国民の理解も得にくいところだったが、この1年間、多くの方がいろんな角度から、この問題を県民や国民に提示していただいたところ、世論調査のほとんどで『まずは辺野古には基地を造ってはいけない』と本土の方々の理解が進んできた。パーセンテージはまちまちだが、ほぼ10%近く、そういう方々が増えたのはこの1年間で私どもが主張してきたことが、理解いただけるような入り口に入ってきたなということで、大変心強い感じがしている」
「きょうの記者会見もそうだが、これからもいろんな場所でお知らせして、沖縄問題もさることながら、地方自治の在り方、そして日本の国の民主主義あるいは最近、中央集権みたいな格好になってきたのでこういったことの危険性、日常から非日常に紙一重で変わる一瞬のものを、変わらないところで止めきれるかどうか。過去の歴史からいうと、変わってしまってからでは大変厳しいことになろうかと思うので、そういったことも含めてみんなで議論していけるような、沖縄の基地問題がそういったものに提示できればありがたいなと思っている」
―日本国全体で普天間をどうしてほしいと思っているか。
「普天間飛行場の原点は、戦後、県民が収容所に入れられている間に、強制接収されたものだ。それ以外の基地も全て強制接収されたわけで、沖縄県民自ら差し出した基地は一つもありませんよという話を官房長官にさせていただいた。だから、一義的には普天間の危険性を除去するときに、辺野古に移すということは、自分で土地を奪っておきながら、また代わりのものも沖縄に差し出せという理不尽な話が通るかというのが、一つ大きなものがある。それからもう一つは、辺野古という大浦湾というこの美しいサンゴ礁の海、ジュゴン、ウミガメがいるようなところを、こうも簡単に埋めてよいのかということも含めて国民の皆さんにご理解いただきたいと思っている」
―島尻安伊子沖縄担当相は最初の会見で「辺野古移設をなんとしても進めなければならない」と言った。知事はどうコメントするか。
「沖縄問題は大変言葉遣いに気を遣うところであり、一昨年の前知事の承認についても話をするのは大変はばかられるものがある。島尻安伊子参議院議員が今回、沖縄担当大臣になったのも、やっぱり県民にとってもいろんな思いがあろうかと思う。そして、沖縄県はこの基地問題も含めて、できるだけ多くの方々を包含して。よく私たちは日本政府と対立をしていると言われるが、意見を言うことそのものが対立と見られるところに、日本の民主主義の貧弱さがあると思う。ほかの都道府県で国に物申したときには対立とか、独立とか言われないのに、沖縄の場合にはそれも言われる」
「私が去年の選挙で『オール沖縄』あるいは『イデオロギーよりもアイデンティティー』と、より多くの人が100%自分の考え方を主張すると言うよりも一定の水準というかあるいは一つの目的というか、そういうもので心を一つにしてやっていこうというようなものが今日の翁長県政のベースになっている。そういうことからしても、政府のやることに対して、私もいろんな思いはある。思いはあるが、就任された中から、またあらためて、沖縄の将来を目指して、一つ一つ頑張っていくというようなことで、また多くの県民国民に理解を得ていきたいなと思っている」
―法廷闘争は結論が出るまでに長い時間がかかり、工事が進んでしまえば施設自体の既成事実化が進む。法廷闘争の限界についてどう考えるか。
「法廷闘争についても、政府を相手にするわけで、そう簡単じゃないということだけはよく分かる。そして工事を再開して、埋め立てをどういう状況で進めるかは分からないが、いずれにせよそういうことがあったとしても、新辺野古基地は造れないだろうと私は思っている。今回、国連でも訴えさせてもらった。本当に今、世界のメディアも注目してもらえるような状況になっている。国内で先ほど申し上げたように10ポイント程度、基地を造っちゃいかんという風な考え方に変わってきたところがある。これから、あそこの現場は、本当に戦争を体験した方か、それに近い世代があんな遠い所に、不自由な所に毎日、1年以上も通っている。そういった所で、理不尽な工事をすることの難しさは大変だと思う」
「それから沖縄県と名護市も決意をもってこのことに当たっている。そういったことをもろもろ考えたら、(辺野古新基地は)10年間でできると言っているが、本当はできるまでの10年間、普天間をそのままにしておくこと自体がもう固定化だ。これはとんでもない話だ。あそこに順調に造った場合には普天間の危険性は除去していくというような話があるが、そうではなくて、普通に言っても10年間は固定化するという話。これを防ぐという意味では、5年間の運用停止を前知事に約束して、そして5年間では空を飛ぶものがないようなものの状態にするということが、いわゆる普天間の危険性の除去ということだと思うが、それすらもアメリカ政府から反対されて、なおかつ今一歩も動かないということからすると、多くの国民と県民の皆さん方にご理解いただきたいのは、10年間そのままにするというのは固定化ではないのかどうか。これもよく考えてほしい。万が一、15年に延びていったら15年間固定化だ。そして、それ(辺野古新基地)がもしできるようなことがあったら、200年間、沖縄のそこに国有地として、私たちの手の及ばないところで、縦横無尽にこの161ヘクタールを中心としたキャンプ・シュワブの基地が永久的に沖縄に国の権限として出てくるようなところがある。普天間の固定化を避けるということでも重要な意味があるが、今度はもう一つ、向こう200年にわたって、沖縄県民の意思とは関係なくそこに大きな基地ができあがり、それが自由自在に使われるようになる。中国の脅威が取り沙汰されているが、200年間、そういった脅威は取り除かれないというような認識で、そういうことをやっているのかどうか」
「そして、今日までの70年間の基地の置かれ方について どのように反省しているのか。それから日本国民全体で考えることができなかったことについて、どのように考えているのか。中谷防衛大臣と話したときに、こういうことでおわびの言葉もありました。『今はまだ整っていないから、沖縄が受けるしかないんですよ』と。『よろしくお願いします』という話をされていたが、私はこう申し上げた。他にもたくさんの人が聞いている所で申し上げましたので、『おそらく20~30年後の防衛大臣も同じ話をしていると思う』と。私はそのように話をさせていただいた。こういったこと等を踏まえると、沖縄というものの置かれているものがよくご理解いただけるのではないかなと思っている」
―知事が移設阻止の手段を講じるたびに、東京では「移設は進まなくなる。責任は翁長知事にある」と吹聴される。責任の所在についてどう考えるか。
「私はまさしくそれが日本の政治の堕落だと言っている。私に外交権があるわけじゃあるまいし。沖縄県知事は当選したら教育や福祉や環境は捨ておいて、年中、上京して、他の市町村や知事に『頼むから受けてちょうだいよ』と。『沖縄こんなに大変なんだよ』と言って歩くのが沖縄県知事の責務になるのかどうか。こういったことを踏まえて考えると、日本政府の方からこういう話をされるというのはまさしく日本の政治の堕落である上に、自分の意思で日本の政治を動かしているのかどうかということさえ、日本政府は試されている」
「日米地位協定も日米安保も含めて、こういった基地の提供というものについて、日本政府が、本当に自主的に物事を判断しながらアジアのリーダーになろうとしているのか、世界のリーダーになろうとしているのか。あるいは日米安保が自由と平等と人権と民主主義を共通して持っている国々が連帯するようなものをつくり上げようとしているわけだから、そういったことについて自国の県民にさえできないような政府が、私はこの日米安保、もっと品格のあるようなものにしてもらいたいという風に思っているので、それから言うと、大変残念なことだ」
「品格のある、民主主義国家としても成熟した日本になって初めて、アジア、世界に飛び出ていける。沖縄の役割も日本とアジアの懸け橋として、アジアの中心にある沖縄の特性を生かして、そういった意味での平和の緩衝地帯というようなことも数十年後には考えながら、沖縄の未来を語りたいにもかかわらず、ただの領土として、基地の要塞(ようさい)としてしか見ないようなものの中で、アジアの展開があるのかどうか。日本の展開があるのかということは、あれだけの権力を持っていながら、沖縄が邪魔するから(基地建設が)できないんだというような、姑息(こそく)な言葉を流すというのは、私からすると、やはり日本の政治の堕落だと言わざるを得ないと思う」
―来年は宜野湾市長選や参院選、県議選など普天間問題が争点になりそうな選挙が続く。取り消しが与える影響についてどう思うか。
「今回の取り消しというよりは、これから節目節目でいろんなことが起きると思う。事の本質が県民にも理解いただけると思うし、国民あるいは世界の方々に、ご理解いただけると思うので、一つ一つの選挙の節目節目で、そういったものが、チェックされていくのではないかと思っている」