精神障がいも運賃割引を 署名活動、全国で広がる


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 障がい者の社会参加などを目的に身体・精神障がい者に適用されているJR、私鉄、飛行機、高速道路料金などの交通運賃割引制度。多くで制度から精神障がい者が除外されているのは憲法や国連障害者権利条約に反するとして、全国の家族会が精神障がい者にも交通運賃割引の適用を求めている。全国で100万筆の署名を集め来年の通常国会に請願書を提出する予定。県内はバス全社、モノレール、タクシー、フェリーで運賃割引があり、全国と比較すると「先進県」と言えるが、飛行機、高速道路料金は割引がなく、県精神保健福祉会連合会(沖福連)も全国と歩調を合わせ署名運動をしている。

 国土交通省によると精神障がい者にも交通運賃の割引を適用しているのは全国で鉄軌道60社(34・7%)、バス716社(33・8%)、旅客船62社(15・1%)にとどまる(2014年4月1日現在)。
 全国精神保健福祉会連合会が立ち上げた「JRなど交通運賃割引全国運動推進プロジェクトチーム」の堀場洋二事務局長は「沖縄のように全社が割引をしている県もあれば、全くないところもある。地域差がかなりある」と話す。
外出控える
 同連合会が当事者や家族を対象にした調査によると、精神障がい者の主な収入源は障害年金や作業所の工賃で、1カ月の平均収入は6万287円。日常生活で交通費が「大きな負担になっている」と答えた人は45%に上り、9割が精神障がい者にも交通運賃割引を実施してほしいと答えた。「交通費を考え外出を控えている」「作業所に通うのに交通費がかかって困っている」などの切実な声も寄せられた。
 県内は精神科病院のない離島から本島の病院に通院する際の航空運賃や県外に行ったときのJRなどの交通費の負担が大きい。
 障害者基本法では3障がいの一元的な扱いを定めている。国連障害者権利条約は、障がい者が負担しやすい費用で移動できる措置を求めており、現状のように障害種別で割引制度に差をつけることは条約や国内法の精神に反する。
根強い差別と偏見
 戦後日本の障がい者福祉は、身体、知的の順に制度が整えられてきた。一方、精神障がいは長年、福祉ではなく医療の範囲とされてきた。本人や家族が周囲に障がいを知られたくないこともあり、当事者運動が遅れた。社会の偏見も根強く、声を上げにくい現状がある。これらのことが、交通運賃割引制度から精神障がいがこぼれ落ちることにつながっている。
 国交省は障がいの種別で差があるのは好ましくないとして、鉄道事業者の団体などに精神障がい者にも割引制度を適用するよう協力を求めている。しかし、割引によって減収となることや、無人駅では本人確認ができないなどの理由で制度の広がりは鈍い。
 沖福連の高橋年男事務局長は「沖縄で約10年前に当事者の声を受け、全社で割引が適用されたのは、差別に敏感な土壌があったから。人間の尊厳を守る社会になれば、当事者も声を上げやすい」と話した。
(玉城江梨子)

精神障がい者への交通運賃の割引を求めて集めた署名を県精神保健福祉連合会の島田正博会長(右)に手渡す連合沖縄の大城紀夫会長=10月19日、南風原町宮平のてるしのワークセンター