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「余裕がないなんて言えない」…みんな病気予備軍<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部(1)中学校教員


「余裕がないなんて言えない」…みんな病気予備軍<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部(1)中学校教員
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉数 陽
就業時間を過ぎても仕事は続く。午後7~8時頃から保護者との話し合いが始まることもあるという(写真はイメージです。本文とは関係ありません)

 沖縄本島内の中学校。女性教諭=40代=は生徒の何気ない一言にぎょっとして、一瞬言葉を失った。「先生って大変だね。ブラック(労働)だよね」。疲れた表情を隠せていなかったかー。とっさには否定できなかった。慌てて取り繕おうとした笑顔は、生徒の立ち去る後ろ姿を見ているうちに涙をこらえたせいかこわばっていた。「もっと生徒と話す時間がほしい」。1年目から生徒と関わる以外の業務の多さに追われた。その年に適応障害を発症し、今も治療を続けながら勤務している。「今晩は普通に眠れますように」。願うような気持ちで毎日帰路に就く。

 教員として採用されたのは20年ほど前。憧れの仕事だったが、就業時間内にさばけるはずがない業務量に最初から苦しんだ。
 1年目は初任者研修(初任研)もある。研修をこなし、報告書を作成して提出しなければならない。当時は食欲不振、睡眠障害に悩んだ。動悸(どうき)が止まらない日が増えたが「提出しないと教員として認められない」と、体を引きずるようにしてこなした。

 なんとか研修をやり遂げたが、研修以外の業務過多はその後も続いた。しばらくして、病休を取ることを決意した。

 ■続く業務過多

 休み時間は次の授業の準備に追われ、生徒と話す時間はほとんどない。慌ただしいまま放課後になり、職員会議や学年会議、生徒指導、部活指導と続く。生徒指導に伴う保護者への電話連絡は、一件一件時間がかかる。保護者が仕事を終えるまで待つこともざらで、午後7~8時頃から話し合いが始まることもある。教材研究、授業の準備、学級担任としての仕事は持ち帰り、深夜までかかることもよくあった。

 教師の業務過重が指摘されて久しいが、軽減の兆しは今も「全く感じられない」。例えば部活動。「部活指導は必ず割り当てられる。できません、余裕がないですなんて言えない。他の人が代わりに負担することになるのが分かるから、暗黙の了解で全員がいずれかの部活を担当する」

 新型コロナ防止対策など新しい仕事は増える一方だ。「GIGAスクール構想で機器の研修が増えた。コロナ対応の検温チェック、出欠の事務処理もある。社会情勢に応じて新しい仕事が出てくるのは理解できる。でも古い業務の見直しは十分進んでいない」。復職しても、改善されない業務の多さに苦しんでいる。

 ■誰にも頼れず

 忙しさは教員同士の関係にも暗い影を落とす。「誰も余裕がないから、相談したり頼ったりできない。一人で抱え込むしかないから、みんな病気予備軍に見える」。迷惑をかけまいと、目の前の仕事に必死に食らいつくが、管理職の評価が給与に反映される教員評価システムの判定は思ったより低かった。「気遣ってもらって、部活は顧問ではなく副顧問。配慮してもらってるから仕方ないのかな」と苦笑いした。

 今も薬を服用し、倦怠(けんたい)感を抱きながら学校に通う。「本来は子どもの成長に立ち会える、とっても魅力的な仕事。一人一人が余裕を持つために、具体的な業務の削減と人手を増やすべきだと思う。今まで教師がやってきた仕事を手放すには、保護者と社会の理解も必要」と訴える。

(嘉数陽)

 

連載「先生の心が折れたとき」

 精神疾患による教師の病気休職者が増え続けている。文部科学省の調査によると2021年度、全国の公立小中高・特別支援学校で過去最多の5897人。沖縄も過去10年間で最多の199人、在職者数に占める割合は全国で最も高い1・29%だった。心を病んだ理由はそれぞれだが、当事者の多くは要因の一つに、就業時間内に終えられるはずがない業務量を指摘する。休職者の増加は他の教員の業務負担につながり、さらに休職者が出る連鎖が起きかねない。心が折れてしまうほど多忙な教員の1日のスケジュールを取材した。

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