沖縄だけ?県議48人全員に個室 過去には「無駄」との指摘も 「国会議員並み」と言われた「アメリカ世」の名残に迫る #昭和98年


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
沖縄県議会の議員居室(沖縄県議会事務局提供)

 今年は全国的に「統一地方選」イヤーで、地方議会への注目も集まっている。沖縄県議会には他の都道府県議会にないものがある。それは議員の個室だ。国会議員のように全県議に完全な個室が与えられている。都道府県議会では最大規模の東京都議会にもない議員の個室が、なぜ沖縄だけにあるのか。その歴史をひもとくと、「国会議員並み」とも言われた復帰前の立法院議員たちの姿が浮かび上がってきた。(デジタル編集・田吹遥子)

■机にソファ…会派室とは異なる、完全な個室

 県議会にある議員居室(各議員の個室)とはどのようなものか。ドア付きで、中には机と椅子、横にはソファーもある。広さは7畳程度で書斎のような作りだ。

 個室は全議員に与えられており、地方議会によくある所属会派ごとの部屋「会派室」は、これらとは別に用意されている。

 県議会事務局によると、このような個室が割り当てられるようになったのは今から約70年前の1954年、前の議会棟があった頃からだ。当時沖縄は日本復帰前でアメリカが統治していた時代。県議会ではなく議会は「立法院」と呼ばれていた。議員の個室が設置された理由には、日本より厳格な三権分立の国、アメリカの政治文化を受けた立法院の役割が影響していた。

■国会議員並み…もはやそれ以上?の立法院

立法院時代の議員居室(沖縄県、シネマ沖縄提供)

 立法院は、当時の「琉球政府」の立法権を司る機関で、1952年に開会した。沖縄大学名誉教授の仲地博さんは立法院について「国会に近かった」と語る。

 立法院は、琉球政府の立法(法律を琉球政府では「立法」と呼んだ)や予算を提出する機関だ。立法院で事務局職員を務めた眞喜屋実顕さんの聞き取りをした仲地さんによると、琉球政府で法案の提案権は行政府にはなく議員のみにあった。当時の知事にあたる行政主席から立法勧告が出されたものの「実際は参考案に過ぎなかった」と、眞喜屋さんは聞き取りの中で話している。

 また、立法院では法案なども議員が各委員会で練り上げて提案していた。当時の沖縄で最高権限を持っていた高等弁務官の司令に抵触するような立法をつくることは許されないことなど、その権限行使は一定の枠内にとどまったものではあったが、立法院が立法権を独占していたと言っても過言ではない。

立法院での本会議の様子(沖縄県公文書館所蔵)

 議案審議も今とは異なる。現在の日本の議会は、全議員が出席する本会議で議案が提案され、分野ごとに分かれた委員会に付託され審議し、本会議で採択する…という流れだ。しかし、当時の立法院では法案はまず委員会に付託され、委員会で可決されたら委員長提案として本会議へ。第一読会、第ニ読会、第三読会と審議を重ね、採択されていた。

 さらに、驚くべきことに、本会議には行政職員は出席しなかった。現在は行政や知事部局の担当者が質疑応答に応じるが、当時は委員長が答えていたという。これらの運営状況から、立法院が行政から完全に独立した形で機能していたことが分かる。

 議員たちに課せられる権限が大きいと、業務量も膨大だ。仲地さんによると、議会事務局の職員は140人とかなりの大所帯で、さらに議員1人に秘書もいた。

 「当時の議員、特に委員長の勉強量と言ったら相当なものだったと思います」と仲地さん。 「立法院事務局の職員研修は参議院に行っていたようですが、法案の作成まで議員が手掛けていることに驚かれたみたいです。ある意味、国会議員よりも強い権限を持っていたと言えるでしょうね」。

■「個室」維持に県民から疑問も…なぜ復帰後も引き継がれた?

 沖縄は1972年に日本に復帰。立法院は沖縄県議会となる。しかし、議会棟自体が復帰前のまま引き継がれたため、個室は残り続けた。議論になったのは、1992年に現在の県議会棟が完成した時だ。新築の県議会棟には議員の個室も備わっていた。

 権限も業務量も異なる立法院時代の名残が、県議会になっても引き継がれていることに、県民から疑問の声もあった。

議員居室が残ることに関する県民からの意見に対して県議会事務局が答えた記事(1991年12月27日琉球新報掲載)

 1991年11月29日の琉球新報の投稿面「声」のページでは、議員居室に掛かる経費や他県の導入事例を質問した上で「議員居室は行財政の無駄、密室政治を招くものと考える」と指摘する意見が上がった。

 それに対し県議会事務局は、1991年12月27日の琉球新報の声欄で次のように答えている。

 個室について「県民を代表して県政討議の重要な役割を担う議員にとって議員居室は執務および調査活動の拠点」と説明。さらに個室が必要な理由に「離島選出の議員にとって大きな役割を果たす」として、離島が多い沖縄の地域事情も強調している。

 国会議員並み、もしくはそれ以上の権限と仕事量で、復帰前の沖縄政治をけん引した立法院。沖縄県議会の議員個室の存在は、その激動の歴史を静かに物語っている。