炎舞う道 願い、歩む 普天満山神宮寺の火渡り行


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火花舞う道を、心を落ち着けて渡る児童=10月12日、宜野湾市普天間の普天満山神宮寺

 火の粉が舞い上がる中、左右の炎に惑わされることなく真っすぐ歩く。渡り終えた人々の表情はどこか晴れやかだ。真言宗の祈りの儀式「火渡り行」体験が10月12日、宜野湾市の普天満山神宮寺の第7回「ふてんままつり」で行われた。地域住民や信者が真剣な表情で、密教の儀式に触れた。

■お寺を身近に

 普天満山神宮寺は、1459年に尚泰久王が住民の祈願所として建立した東寺真言宗のお寺だ。旧暦9月9日の重陽(ちょうよう)の節句「観音祭」には、首里から国王が同寺を訪れ、健康を祈願していた。現住職の金城良啓(りょうけい)さん(40)は123代目に当たる。
 金城住職は「多くの人に寺を身近に感じてほしい」と考え、2009年から「ふてんままつり」を始めた。祭りは、信者や月1回の勉強会の参加者、住職のセミナーなどで知り合った人たちが力を合わせてつくり上げる。
 勉強会の参加がきっかけで祭りのスタッフになった喜納ツネ子さん(62)=宜野湾市=は「お寺の敷居を下げて、皆が楽しめる良い祭りだ」と笑顔で話す。
 祭りの日、境内には地元の飲食店によるパンや焼き菓子、ワインの出店などが所狭しと並ぶ。地域の子供会の獅子舞などの他、稚児行列や写経会といったお寺ならではの催しが訪れた人々を楽しませる。中でも人気なのが、祭りの最後に行われる「火渡り行体験」だ。

■不動明王招く儀式

 空手の奉納演武が終わり日も暮れ始めたころ、6人の僧侶が修験者の装束を着て祭壇に現れた。僧侶らの吹くほら貝の音色に、たいまつの炎が静かに揺れる。祈りの後、祭壇のろうそくの火が護摩(ごま)壇に点火された。太鼓と錫杖(しゃくじょう)の音、読経の声が響く中、護摩壇から炎と煙が上がり始めた。僧侶は、煙をまぶした御幣(ごへい)を時折参観者の頭にかざし、場を清めて回る。
 僧侶の合図で人々が「家内安全」「サッカー選手になれますように」などの願いを書いた護摩木を一斉に炎に投げた。護摩木は不動明王が宿る炎に焼かれ、煙とともに天上の仏の世界に願いを届けるとされる。
 護摩壇の炭をならし、清めの塩をまいてつくった道の四方で、僧侶が印を結んで炎を静める。炎を上げる丸太に挟まれた火の粉舞う道に、僧侶がずんっと踏み出した。渡り終えると、歓声が上がり、子どもたちがわれ先にと列をつくり始めた。

■願掛けと清め

 「君ならできる」「やけどした人もいるってよ」。 神聖な炎に照らされた空間で人々が、緊張と興奮に包まれた面持ちで並んでいる。自分の番を迎え、炭のパチパチという音や炎の熱さを感じると自然と背筋が伸びる。ためらう人には、「手を合わせて、真っすぐ歩けば大丈夫です」と僧侶が優しく声を掛けていた。
 一番に挑戦した沖縄カトリック小3年の平良昊太郎君(9)=宜野湾市=は「最初は熱かったけど、慣れてきた。空手大会で優勝できるようお願いした」と満足げに話した。
 互いの健康を祈った老夫婦や将来の夢の成就を願った子どもたち。人々は、炎で温め、清められた心と体を互いに寄せ合うように、暗闇の中を家路に就いた。
文・藤村謙吾
写真・諸見里真利