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ウクライナの反転攻勢 「命どぅ宝」で即時停戦を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 ウクライナが反転攻勢を始めたようだ。<米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は5日、米当局者の分析として、ロシアの侵攻を受けるウクライナが反転攻勢を始めた可能性があると報じた。ウクライナ側のミサイル発射や砲撃を米軍衛星で監視しており、軍事行動が活発になっていることを覚知したという。ワシントン・ポスト電子版も同日、複数の米当局者が反転攻勢は進行中との見方を示したと伝えた>(6日、本紙電子版)

 ロシア政府系テレビ「第一チャンネル」は、5日の「夕方のニュース」で、戦車を伴うウクライナ軍がドネツク、ザパロジエ、ヘルソンの4カ所の突破を試みたが、ロシアの国境警備隊と軍隊が全て撃退したと報じた。ウクライナ軍の兵員300人以上を殺害、戦車16、装甲車両26、自動車14を破壊したという。ドローンで撮影した戦車3両、装甲車両1両がミサイルで破壊される瞬間の動画を映した。ウクライナは本件について沈黙している。

 この戦争の見通しはどうなるのだろうか。興味深いのが、東西冷戦期にソ連から秘密裏にユダヤ人をイスラエルに出国させる工作に従事するイスラエルの秘密組織「ナチーブ」(ヘブライ語で“道”の意味)の秘密工作員として活躍し、1992~99年、この組織の長官を務めたヨッシャ(ヤコブ)・ケドミー氏の見方だ。ケドミー氏は筋金入りの反ソ・反共主義者だ。ただし、2014年のマイダン革命以降、ウクライナではネオナチ勢力の影響が強まり、ウクライナ東部のロシア系住民に対するウクライナ政府の圧迫は人権侵害であると主張するようになった。去年2月24日からのロシアのウクライナに対する「特別軍事作戦」(侵攻)もやむをえないという立場を表明している。

 国営「ロシア・テレビ」の政治討論番組「ウラジーミル・ソロビヨフとの夕べ」はロシア世論に無視できない影響を与えている。2日未明の放送でケドミー氏がウクライナ戦争の見通しについてこう述べた。

 <NATOはロシアとの戦闘を死ぬほど恐れている。同時にNATOは自分たちが負けるとは思っていない。西側がNATOにウクライナを加えることはない。それがロシアとの戦争行動につながると理解しているからだ。二つの命題「ウクライナはウクライナで勝利しなくてはならない」「ロシアはウクライナで勝利しなくてはならない」を比較してみよう。どのような違いがあるだろうか? ロシアは勝利する可能性があるが、ウクライナが勝利する可能性はない。このことを西側は信じようとしない。西側は一度も勝利しない可能性について考えたことがない。いつそれについて考え始めるであろうか? ベトナム戦争の例に即して考えてみよう。毎週、額を机にたたきつけられて、頭蓋が床にたたきつけられ、骨が折れる音が聞こえるようになったときである>

 ウクライナの反転攻勢を徹底的に撃退しない限り、停戦の基盤はできないとケドミー氏は考えているようだ。筆者もこの戦争についてはケドミー氏と同じく、ロシアが勝利する可能性はあるが、ウクライナが勝利する可能性はないと考えている。アメリカを中心とする西側連合がウクライナへの武器供与を止めれば、ウクライナは戦争を継続することができなくなる。犠牲者を一人でも減らすために即時停戦に踏み切る必要がある。「命どぅ宝」という価値観に立ってこの戦争の解決に向けた努力を日本政府もすべきだ。

(作家・元外務省主任分析官)