『昭和天皇の戦後日本―<憲法・安保体制>にいたる道』 冷徹なリアリストの姿


社会
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『昭和天皇の戦後日本―<憲法・安保体制>にいたる道』豊下楢彦著 岩波書店・2400円+税

 昭和天皇没後25年を経て、その実像に迫る『昭和天皇実録』(全19巻)が、編纂にあたった宮内庁により昨年9月に記者公表された。今年3月から書店販売となり、2019年までに順次全巻が並ぶ。誰もが『実録』を手にできるようになる。しかし、読み物風な記述ではなく、日付ごとに天皇の個々の活動が列記される。また、長寿かつ長期にわたる在位期間だったため、全巻読み通すには忍耐を要す。

 膨大な『実録』から何が明らかになったのかを知るには、昭和天皇に関心を持つ専門家による本が役立つ。その中で、分析と検証に最も優れているのが本書だ。
 著者のライフワークと呼べる昭和天皇の戦後史の蓄積の中に、この『実録』の記述を移し替えて、戦後政治をダイナミズムに描く。そこに、冷徹なリアリストとしての天皇の姿が鮮やかに浮かび上がる。現人神(あらひとがみ)から象徴となる新憲法の逸脱を冒しても高度な政治行為に走る姿は、憲法と日米安保からなる戦後体制の擁護者であった。
 なぜなら、本書によれば、天皇制の維持こそが、敗戦後の昭和天皇の究極目標であったからだ。つまり、退位や勝者の裁きという危機を回避し、象徴とはいえ天皇制存続を保障する憲法を支持し続けてきた。9条を持つ憲法への姿勢は、現在の明仁天皇にも引き継がれている、と。そして、本来なら天皇を守るべき帝国陸海軍が解体された結果、占領以降、天皇とその日本を米軍に守ってもらうべく日米安保を積極的に推進した、だからこそ、戦争犯罪人を合祀(ごうし)する靖国神社に参拝しない天皇の論理は一貫している、と指摘する。
 戦後における天皇の政治活動を追究した本書は、天皇のいる日本を守るために、天皇自身が沖縄作戦の積極的展開を求め、沖縄陥落直後に「終戦」工作を命じたことを明らかにする。戦後は、米軍による日本防衛と天皇制擁護のために天皇は、米国による沖縄統治を提案したのだった。だからこそ、昭和天皇は生涯、沖縄への配慮を忘れなかったのである。
 沖縄を「捨て石」として利用する姿勢は、安倍政権に明快に現れている。新基地埋め立てをめぐって、県知事を訴える政府の訴状は、沖縄の意思よりも日米合意が優先すると記している。(我部政明・琉球大学教授)
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 とよした・ならひこ 1945年、兵庫県生まれ。京都大法学部卒。元関西学院大教授。専門は国際政治論・外交史。著書に「安保条約の成立」「『尖閣問題』とは何か」など多数。

昭和天皇の戦後日本――〈憲法・安保体制〉にいたる道
豊下 楢彦
岩波書店
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