⑩連鎖断ち切りたい 見据える「スタート」


この記事を書いた人 外間 聡子
「返済する必要のない『給付型』の奨学金制度が増えてほしい」と話す女性=沖縄本島

 昨年2月に大学を退学した女性(22)の目標は、奨学金を返済し経済的に自立すること、生活を安定させることだ。フルタイムで週に5日、事務のアルバイトをしている。休みの日に短期のバイトを入れることもしばしばだ。
 以前に正社員の仕事を紹介してもらう機会があったが、運転免許証がなく保留になった。大学とバイトの忙しさで取りそびれていた免許の取得の必要性も感じている。
 そう思っていた矢先、母が体調を崩して入院した。実家の家族も支えなければならなくなった。
 大学1、2年の時に借りた奨学金の返済額は192万円。実家への支援も抱えた家計を考えると、返済額は月々1万円余とはいえ厳しい。そのため1年間返済を停止する「支払い猶予」を申し出たところ、認められた。
 ただ返済を先送りしただけで、このままいくと返済が完了するのは女性が30代半ばになるころ。将来の夢はまだ描けていないが、少なくとも結婚や出産はできるだけ先延ばしにしなければ、と考えている。「結婚相手に返済させるわけにはいかない。ましてや出産は、と思う。早く身軽になりたい」
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 4人きょうだいの第1子として育った女性は、幼いころから下の妹弟たちの面倒を見てきた。母子世帯で母親は昼と夜の仕事を掛け持ちしていた。
 母親の収入が不安定で収入が滞ると生活保護を受けた。安定してくると保護は解除される。幼少時からその繰り返しだった。ときどき家のガスや電気が止められることがあった。「真冬の水風呂はつらかったなー」と懐かしそうに笑う。
 PTA会費などの徴収袋を母に手渡すのがいつも嫌だった。渡すと母は不機嫌になり、渡さないと滞納額が増え、さらに怒られる。妹弟も徴収袋を手に母親の顔色をうかがっていた。
 幼心に「母の負担を減らしたい。大人になったら自立した人間になりたい」と思いながら育った。
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 高校2年の時に、住んでいた地域から約60キロ離れた街に家族は引っ越すことになった。女性は転校せずに1人暮らしを始めた。生活費は飲食店などでのアルバイトで賄った。高校は授業料が無償だったこともありどうにか乗り切った。
 でも大学は違った。日本学生支援機構から月8万円の奨学金を借りた。奨学金は、まず生活費に充て、残った分を学費の支払いに向けた蓄えとして取っておいた。それでも足りず、数十万円単位に上る前期・後期の学費の支払いは女性の肩に重くのしかかった。
 借金をしてまで学業を続ける意味を問い直し、昨年2月に退学届を出した。後悔はしていない。
 経済的に厳しい家庭でも学ぶ意欲のある学生の進学を支えるのが奨学金制度の役割だ。一方で返還の必要がない「給付型」の奨学金や学費の値下げが広がらない限り、最も必要としている人にとっては社会に出る時のスタートラインに大きな差が生じる。
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 3月に高校を卒業する弟は、専門学校への進学が決まった。弟も奨学金を利用しての進学だ。弟には奨学金が借金であること、卒業後の月々の返済額と返済が何年続くか、返済できなければ保証人に請求されること、在学中にしっかり資格取得し就職することなどを強く言い聞かせた。
 弟には「『何かあれば家族がどうにかしてくれる』という甘えは許されないという気持ちで進学してほしい」と伝えた。
 まだ将来の方向性は定まっていないが、少なくとも自分の世代で貧困の連鎖を断ち切りたいと考えている。「今後目標をがっちり固めた時が私の人生のスタートだ」。女性は、自身を奮い立たせるようにそう語った。
(子どもの貧困取材班)