『まちかんてぃ! 動き始めた学びの時計』 「学校の可能性」を再考


社会
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『まちかんてぃ! 動き始めた学びの時計』珊瑚舎スコーレ編著 高文研・1700円+税

 「まちかんてぃ」というタイトル通り、多くの人々が待ちわびた一冊である。この本は、那覇にある夜間中学に通うおばあ、おじいの「語り」を紡いだものだ。そこには、彼らの貧しく厳しい人生がつづられている。そして避けることのできない「沖縄戦」の語り。生後3カ月の妹を抱えて壕から追い出された、ガマに手りゅう弾が投げ込まれ親戚が亡くなったと、貴重な沖縄戦体験の数々は、沖縄戦の実相を私たちに伝えてくれる。

 それだけにとどまらず、どのように戦後を生きてきたのか、職業はどうだったのかが、つづられていることも貴重だ。職を掛け持ちしながら子育てをしたこと、無学ゆえに差別的な扱いを受けたこと、領収証一枚書くためにも緊張していたことなど、戦後沖縄社会の一面を私たちに伝えてくれる。
 沖縄戦から戦後沖縄の人々の生活を具体的に学ぶことができる貴重なオーラルヒストリーとして本書は多くの人に手に取ってほしい。
 それと同時に、大学で教職を担当している者としては、夜間中学で学ぶ姿、学ぶ喜びをつづった「語り」をぜひ多くの教員志望の学生に読んでほしいと思っている。これまでのいくつかの授業において、夜間中学珊瑚舎スコーレを扱ったドキュメンタリーを紹介してきた。その中で学生たちは、「学ぶということは、生きるうえで喜びになるんだ」「学ぶという行為を通して彼女たちは自信をつけている」など、学ぶ姿そのものに大きな共感が広がる。
 そして、「学力ばかりが重視される現在、学ぶという行為についての質が見失われているのではないか」と述べる学生もおり、学校教育の在り方を見直すきっかけとなっている。
 大学生の多くが、これまでの学校教育で、「学ぶ喜び」を忘れている、もしくはそのような実感がない。子どもたちが「学ぶ喜び」を感じられない授業、学校とは一体何なのか。私たちは、この問いの答え、「学ぶってこんなに楽しいんだよ」と語る夜間中学のおばぁ、おじぃの学びから「学校の可能性」を再考したい。本書はそのための必読書だ。
(山口剛史・琉球大学准教授)
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 さんごしゃ・すこーれ 2001年4月に那覇市で私塾として開設され、03年1月からはNPO法人が運営している。現在、初等部、中等部、高等部、専門部、夜間中学校の五つの課程を開設している。

まちかんてぃ!  動き始めた学びの時計
学校NPO法人 珊瑚舎スコーレ
高文研
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