『「少年A」被害者遺族の慟哭』 無間地獄抱える苦悩


社会
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『「少年A」被害者遺族の慟哭』藤井誠二著 小学館新書・760円+税

 最初に断っておくが、本書は例の『絶歌』を出版した「元少年A」についてのルポではない。少年犯罪問題の第一人者である著者が、少年Aの事件も含めて犯罪の実相や少年法の問題点を深い視点で考察した一冊である。

 少年犯罪はその猟奇性や凶悪性から世間の耳目を集めやすい。しかし、それも事件直後の期間で、判決や審判後は報道量が極端に減るのが実情だ。それゆえ、われわれは事件の「その後」についてほとんど知らない。かくして事件は風化する。その過程で何が起こっているのか。
 この本では世間の関心が過ぎ去った後の知られざる現実と実態が幾重にも紹介されている。例えば-。審判が下り、その後民事訴訟によって損害賠償金の支払い判決があっても、まともに支払われるケースは少なく、1円も支払われていないケースさえある。支払いには期限が設けられ、その時効は10年でしかない。未払いでも罰則は適用されず、それを防ぐには遺族が弁護士費用を出して対応する必要があり、督促すらも自分が直接行わなければならない-。 
 加害者が「逃げ得」の道を与えられる一方で、2次的・3次的な絶望的事態に追い込まれる遺族。著者は緻密な取材を通して、少年法のあからさまな不備を暴くと同時に、言葉や金銭を得ても償えない無間地獄を抱えた遺族の苦悩を活写していく。
 本書では2009年に沖縄で発生した8人の少年によるリンチ殺人事件も紹介されている。
 「いじめ」に端を発した事件と見られているが、加害者の家族には共通点があったことが指摘されている。いわく、「子供への無関心」「夫婦の不仲」「父親のドメスティックバイオレンス」「離婚」-。いずれも現在の沖縄が抱えている社会問題と怖いほど重なっている。「少年事件の根っこには、親の理不尽な暴力や荒廃した家庭が横たわっているケースが多いことも忘れてならない。暴力は循環する特性を持っている」
 負の遺産は先送りできない段階にきている。今ほど著者の言葉を重く受け止めるときはないかと思える。(仲村清司・作家)
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 ふじい・せいじ 1965年、愛知県生まれ。高校卒業後、本格的にノンフィクションライターとして活動を開始。教育問題、少年犯罪、沖縄問題などについて精力的に作品を発表、テレビやラジオなどでも提言している。

「少年A」被害者遺族の慟哭 (小学館新書)
藤井 誠二
小学館
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