『野の医者は笑う』 「心の治療」問う意欲作


社会
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『野の医者は笑う』東畑開人著 誠信書房・1900円+税

 人生において揺らぎが重なったとき、人は何に癒やしを求めるのか…。本土から沖縄に来た研究者の多くは、この島々にはユタの文化やウタキへの信仰があり、もともと「癒やし」の土壌があるという見方をする。だからこそ、沖縄ではヒーリング文化が広がりやすく、「心の癒やし」を求めやすい環境にある…と結論づけていく。本書でも、沖縄を舞台としていることが「野の医者」の特殊性であり、そこに沖縄固有の要因が隠されている…という思考回路が働いている。

 主人公である東畑開人、すなわち著者は京都大学大学院で博士号(教育学)を取得した研究者であり、臨床心理学士でもある。沖縄のクリニックで働きつつ、「心の治療」の在り方を問い直していく。フィールドワークで「心の治療者」と接する中で、ヒーリングを行う民間の治療者を「野の医者」と名付けた。
 彼ら彼女らの技法は、スピリチュアルヒーリング、民間療法、占いなどが入り交じっていて、臨床心理学の技法(箱庭、コラージュなど)を取り入れるものもあった。主人公は治療現場に立ち会っていくうち、臨床心理学が「野の医者」の技法との二項対立ではなく、併存すべき存在であるという見解を持つようになる。
 「野の医者」は自らも病み傷つき苦しみ、ヒーリングにより癒やしを体験した者が多い。その治療プロセスにおいて、治療者の生き方が患者のモデルとなる可能性が高いという。心の治癒を機に師弟関係になることも多く、まさに〈魔法使いの弟子〉となってしまうことがある。そこには〈ミイラ取りがミイラになる文化〉があった。
 だが怪しそうでもあり、不可思議でもある「野の医者」たちの世界は奥が深い。その治療の場面だけでも引き込まれていく。「ミルミルイッテンシュウチュウ」「6番目のオバア」「お幸せ様」…と「野の医者」たちの声は朗らかさに支えられている。「野の医者」を知り、それを鏡として、「臨床心理学」を問いただす試みが成功した意欲作であるといえよう。
(須藤義人・沖縄大学准教授)
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 とうはた・かいと 1983年生まれ。京都大学教育学部卒。2010年、同大大学院教育学研究科博士課程修了。13年、日本心理臨床学会奨励賞受賞。

野の医者は笑う: 心の治療とは何か?
東畑 開人
誠信書房
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