正社員で苦しみ増 手取り、手当て減額


この記事を書いた人 外間 聡子
保険料の等級を示した資料に目を通す女性=本島内

 多重債務に陥っていた母子家庭の女性(43)は、その後、債務整理で生活を持ち直した。派遣社員として働いていたコールセンターは中国への業務移管で閉鎖されたが、正社員として別のコールセンターで働くようになった。だが、派遣時代よりも健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の負担が増え、手取り額は2、3万円増えた程度。就業時間は増え、小学5年生の息子と過ごす時間は減った。「派遣のままが良かった」と後悔を口にする。
 派遣時代の手取り給与は10万円前後だったが、正社員は約13万円。昨年9月に基本給が千円昇給したが、そのため各種保険料の等級も上がり、手取り額は逆に減った。満額の約4万円が年3回支給されていた児童扶養手当も、所得の増加で約3万3千円に減額された。「頑張った結果が『減給』。総支給で保険料や児童扶養手当の額を決めるのではなく、手取り額を見てほしい。これなら頑張らない方がいいと思ってしまう」と、やり場のない怒りがこみ上げる。
 息子の中学入学資金として貯蓄に回していた児童扶養手当を生活費に充てることも出てきた。正社員の道を選んだのは、息子の進学を見越して必要となる教育資金を蓄えるためだったが、少なくなった児童扶養手当にも手を出さないと生活できなくなった。本末転倒の現状に、ため息が出る。
 女性は生活苦でローンが支払えず車を手放した。部活に励む息子の送迎が難しくなり日没が早い冬場は練習を休ませることも増えた。「プロの選手」だった息子の夢は、いつの間にか「正社員のシェフ」に変わっていた。
 「お金があると思われても困るし、ないと思われても心配をかけるだけ」と思い、息子には自分の給料や生活に掛かる費用をつまびらかに説明している。給料はいくらなのか、電気、ガス、水道代はいくらかかるのか、息子も全て把握している。
 その結果、息子は率先して節電し、お菓子を我慢するようになった。部活のユニホームはすぐにぼろぼろになるが、家計の事情を知っている息子は「縫えばまだ使える」と言って新しいものを欲しがらない。生活費が苦しくなれば「お年玉を貸してあげる。その代わりちゃんと返してね」と言うこともある。
 昨年末のクリスマス。女性は息子に「サンタさんはいない」と告白した。毎年、二つのプレゼントを用意し「一つはサンタさんから、もう一つはお母さんから」と教えていたが、ことしは一つしか用意できなかったからだ。息子は「サンタさんがいないのは分かっていた。プレゼントを二つもらえるから黙っていただけ」と返した。プレゼントが減ることに文句を言うことはなかった。
 正社員で働くようになり、サービス残業も出てきた。派遣時代は午後5時に終業し、1分でも過ぎれば残業代が出ていたが、正社員では午後7時まで働いても残業代が出ない。家に帰れば家事があるため、午後10時前には寝る息子と過ごす時間は減った。「息子といる貴重な時間を削って正社員になったが、今は後悔している。派遣は保険がない期間もあったが、私は体は丈夫だから」と話した。
(子どもの貧困取材班)