『沖縄は「不正義」を問う』 民意の反映と深化


社会
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『沖縄は「不正義」を問う』琉球新報社論説委員会著 高文研・1600円+税

 筆者も関係する早大の石橋湛山記念ジャーナリズム大賞や新聞労連大賞などで、琉球新報や沖縄タイムスの記事が、毎年のように入賞する。
 紙面には本土の新聞には見られない、平和に対する記者たちの熱い思いが込められ、政府の沖縄への攻撃に、広く深く掘り下げ反論している。

 だからこそ、自民党若手議員の勉強会で、「沖縄の新聞は左翼勢力に乗っ取られている」といいがかりをつけられ、講師の百田尚樹氏が「沖縄の二紙を潰(つぶ)さないといけない」と応じたりする。
 平和を「左翼の思想」と言い切る議員たちが、臆面(おくめん)もなく国会でのさばっている。民主主義の第1条は、言論・報道の自由である。
 権力政党の代議士たちの、非民主主義な感覚と露骨な沖縄差別が、グロテスクなまでに示された事件だった。このような知的レベルの政治家たちが、なんの痛みも感じることなく、沖縄に新たな米軍基地を押しつけようとしている。
 権力をかさに着た百田発言にたいして、琉球新報と沖縄タイムスの両編集局長が連名で、すかさず「言論の弾圧を許さず」との抗議声明をだしたことに、沖縄の強い決意が表されている。
 この本は戦争準備と基地建設を強行している安倍政権とその追随者たちへ、言論で果敢に立ち向かった論説の記録集である。
 特別評論と社説は、沖縄の民意の正確な反映であり、民意の定着はさらに民意の深化をもたらす。ジャーナリズムのもっとも幸福なこの関係は、本土の新聞を読んでいる私たちには、眩(まぶ)しいものとして映る。
 筆者もまた、「移転」に名を借りた辺野古への米軍新基地建設には反対であり、日本政府は真剣に、米国への撤去に尽力すべきだ、と考えている。それはわたしたち主権者の責任でもある。
 ジュゴンのいのちの海ともいえる、あの静かな大浦湾と美しい辺野古海岸を、コンクリートと爆撃機と軍艦でめちゃめちゃにする野蛮な欲望は、遠い未来にひどい害を及ぼす。子孫にたいする最悪の行為だ。
 言論の責任によって沖縄と日本の将来を指し示す、この勇気ある提案と批評は、現代史の見事な記録でもある。(鎌田慧・ルポライター)
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 りゅうきゅうしんぽうしゃ 1893年創刊。各種のスクープ、キャンペーン報道で、4度の日本新聞協会賞のほか、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、平和・協同ジャーナリスト基金賞、新聞労連ジャーナリズム大賞など多数の受賞記事を生んでいる。

沖縄は「不正義」を問う
琉球新報社論説委員会 編著
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