「家賃助成あれば」 子のため、願う安定


この記事を書いた人 外間 聡子
児童が出場するスポーツ大会で声援を送る女性=本島南部

 ランニングシューズを手に小学生の息子が困った顔をしている。旧正月明けの寒い夜だった。陸上競技大会を翌日に控えていた。「底に穴が開いている。どうしよう」。一瞬押し黙り「買ってあげるよ」と言い掛けた女性の表情を察知したのか、息子は笑顔で返した。「いいよ、平気だから」。
 40代の女性は本島南部で小学生の子ども3人と高齢の母親との5人暮らし。離婚後、飲食店で働くが1カ月の手取りは10万円に届かない。生活費の不足分をカードローンで補い、給料で返済し、また借りる日々。お金の工面が頭痛の種だ。
 築30年近い3DKのアパートに住むが、家計に月5万6千円の家賃が重くのしかかる。子ども3人分の児童扶養手当は家賃に消える。各部屋は家具と衣類でいっぱいだ。子どもたちは居間で肩を寄せ合うように寝ている。クーラーはなく夏は扇風機で乗り切る。医療費の支払いも難しい。「病気にかかったら許さんよー」と言ってしまい、後で悔やむ。
 公営住宅を考えたこともあった。近隣の公営住宅は3DKなら3万~4万円台で借りることができるが、役場で「保証人を探せますか」と問われ、望みを打ち砕かれた。親戚はほとんど生活保護世帯。頼れる身内はおらず申し込みを断念した。
 「今の場所に未来永劫(えいごう)住みたいと思ってない」とため息をつくが、抜け出すすべが見つからない。子どもたちには「社会に出て物事を身に付けるには勉強が大事だよ」と諭し、夢をかなえさせたいと願う。その前提となるのが安定した暮らし。「子育てが落ち着くまでの期間、行政から家賃を助成してもらえたら」と強く望んだ。
 女性の窮状は沖縄では特異なケースではない。県母子寡婦福祉連合会の与那嶺清子会長は「家賃が払えないという相談が多い。相談者のほとんどが銀行やサラリーローンから借りて家賃を払っている」と実感を込める。
 各種調査からは、固定経費の中で最も割合の大きい家賃が、沖縄の子育て世帯の家計を圧迫している実態が見えてくる。
 全国の賃貸仲介・管理会社など約1570社でつくる「全国賃貸管理ビジネス協会」が1月に発表した全国調査結果によると、1~3部屋の総平均賃料は東京(7万3229円)を100%とした場合、沖縄は5万1454円で70%。ほぼ福岡県並みで、全国14位と高い水準にある。
 「沖縄は面積が狭い中で、米軍基地や規制のかかっている土地がある。宅地が限られているため地価が高くなり、家賃を押し上げる一因になっている」と同協会に加盟する琉信ハウジングの担当者は説明する。
 おきぎん経済研究所の賃料動向ネットワーク調査によると、3K~3LDKの中古物件の家賃は那覇市内で7万円~8万円台、宜野湾、浦添など4市で6万円台に上り、都市部は軒並み高い。一方で沖縄は勤労者の年間平均収入が全国の約75%。年収200万円未満の困窮世帯は24・7%を占め全国一、割合が大きい。
 県母連の与那嶺会長は「暮らしを安定させるために、真っ先に必要なのは住環境の保障だ」と述べ、困窮する子育て世帯に対する家賃補助を求めた。
(子どもの貧困取材班)