『奄美の伝統料理』 生活に息づく食の文化


社会
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『奄美の伝統料理』泉和子著 南方新社・2800円+税

 著者は「今に生きる島の料理」と題して、8年ほど前から地元の『奄美新聞』に記事を連載してきた。本書はそれを基にしつつ、さらに料理の分類やレシピ、コラムなど、ひと工夫加えて編まれている。

 その分類は「行事の料理」「肉の料理」「海・川の恵みの料理」「野菜の料理」「お菓子・餅」「調味料」となっている。それらの中で、私が最も興味深く読んだのは「行事の料理」である。
 その最初の三献(サンゴン)の説明は次の通りである。「元旦の朝は若水汲みから始まり、ご先祖さまに新年の感謝の気持ちを拝みます。家長の…掛け声とともに三献の儀式が始まります。餅の吸い物、刺身、豚肉か鶏肉の吸物と3回、膳を代え、各膳の間々に家族全員に焼酎の杯がまわり、高膳の昆布と干し魚やスルメを盛り塩につけて授けるという献立構成で、儀式を終えます。」
 また、それとの対比で取り上げると、年末のウァンフィネヤセ(豚肉野菜)は次のようになる。「クンチ(大みそか)の夜は、家族でまたは友人たちと、行く年、来る年を語りながらウァンフィネヤセと年取り餅を食べるのが奄美の習わしです。」
 ここでいうウァンフィネは直訳すれば豚の骨のことである。琉球弧の民俗文化ではそれも肉のうちで、いわゆるソーキ(あばら肉)のことである。
 年頭には三つの膳の最後に豚肉か鶏肉が登場し、年末は最初からウァンフィネと餅の組み合わせである。両者とも本土(鹿児島)の影響が認められるものの、沖縄と通底する部分も見え隠れしている。つまり、食の側面における文化変容が読み取れる。
 そのように、本書は特定の視点からの利用にも耐えうる内容を有している。しかし、その最大の魅力は料理一つ一つを生活の中に位置付けて説明し、全て写真付きで、文献も駆使しながら、材料や作り方まで解説している点にあるといえよう。それと首っ引きで挑めば、日頃料理とは縁の薄い私でも、奄美名物の「鶏飯」がつくれそうな気がするから摩訶(まか)不思議である。
 (津波高志・琉球大学名誉教授)
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 いずみ・かずこ 鹿児島件奄美市(旧名瀬市)生まれ。鹿児島県立大島実業高校卒。実家の旅館を手伝い、料理を習う。民俗学者の山下欣一氏から教示を受ける。共著に「龍郷町誌民俗編」など。

心を伝える 奄美の伝統料理
泉 和子
南方新社 (2015-12-09)
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