政治

<沖縄基地の虚実5>嘉手納に絶大な力 「全米軍が撤退」とすり替え

極東最大の空軍基地の嘉手納飛行場と隣接する嘉手納弾薬庫。面積では日本本土の主要6米軍基地の合計の1・2倍で、米政府元高官らは嘉手納基地がない場合、空母打撃群の展開に年間3兆円もの費用がかかると見積もっている=2014年7月(花城太撮影)

 「力の空白をつくらないことが大事だ」「米軍基地は日本の抑止力としてのプレゼンス(存在)を維持する点で必要だ」

 2015年5月、米軍普天間飛行場の地元への受け入れを拒否する稲嶺進名護市長と初会談した中谷元・防衛相は会談後、記者団にこう述べ、辺野古移設の必要性を強調した。しかし県や名護市、多くの県民が求めているのは在沖米軍や在日米軍全体の即時撤退ではない。普天間飛行場の県内移設の見直しを求めている。普天間問題に絡み、「沖縄から米軍が撤退すれば中国が攻めてくる」といった言説も散見され、移設問題が印象論で議論されていることは否めない。
 普天間の県内移設をめぐってはしばしば「中国脅威論」が引き合いに出される。だがミサイル能力や海軍力の強化に力点を置く中国軍を念頭に置けば、地上部隊と連携するヘリコプターの基地である普天間飛行場ではなく、嘉手納などに拠点を置く空軍力や、横須賀などに拠点を置く海軍力が圧倒的に「抑止」の機能を有している。仮に普天間を閉鎖しても、沖縄に軍事力の「空白」が生まれることにはならない。
 インターネット上でも、フィリピンから1992年に米軍が撤退し、その後フィリピンが中国との間に南シナ海のスカボロー礁の領有権をめぐる紛争を抱えたことを引き合いに「沖縄の米軍基地が必要」だとする主張が見られる。
 だが92年のフィリピン撤退の事例はクラーク空軍基地とスービック海軍基地の2大拠点の閉鎖をはじめ、全ての米軍が撤退したことを指す。ヘリ基地である普天間飛行場の移設問題をフィリピンの米軍撤退と単純比較しての議論は合理的とはいえない。県などは普天間飛行場を日本本土に移設することも選択肢として主張しており、その場合、米海兵隊のヘリ部隊が日本から撤退することにはならず、その点でもフィリピンの事例とは異なる。
 では普天間を差し引いた場合、沖縄の基地負担はどれほど残るのだろうか。
 沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)の調べによると、嘉手納飛行場と隣接する嘉手納弾薬庫を併せた面積だけで、横田、厚木、三沢、横須賀、佐世保、岩国の県外主要米軍6基地を合計した面積の1・2倍に相当する。
 佐藤氏は「普天間を閉鎖しても、沖縄はなお応分以上の負担をしている。沖縄の負担軽減要求は全く正当なものだ」と指摘する。
 機能面はどうか。オバマ米政権で国務副長官を務めたジェームズ・スタインバーグ氏と米有力シンクタンク「ブルッキングズ研究所」のマイケル・オハンロン上級研究員が2014年に発表した共著『21世紀の米中関係』で、資産価値の高い米国外の基地に触れ、その代表例として「沖縄の嘉手納基地」に言及している。
 同論文は仮に太平洋地域で嘉手納基地の機能がなければ、米軍はその代わりに4~5の空母打撃群を展開しなければならないとした。さらにその費用は「年間250億ドル(約3兆円)かそれ以上」と評価した。嘉手納基地があるだけで、年間3兆円もの費用に相当するほどの安全保障を沖縄が負担していることになる。
 佐藤氏は「県内ですら、米軍のどの軍種にどのような役割と機能があるかがあまり理解されていない。ましてや県外では『米軍』とひとくくりにされ、ひどい時には嘉手納基地の存在すら知らない人も多い」と指摘する。「それに乗じて沖縄に基地負担を押しとどめたい人たちが、あえて『米軍撤退』という表現を用い、普天間問題の本質を隠している場面もある」と述べ、沖縄側からの効果的な情報発信が必要だと強調する。(島袋良太)