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<沖縄基地の虚実7>専用施設、米軍に「特権」 地元の事故調査も制限


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
普天間爆音訴訟控訴審で、深夜早朝の飛行差し止めを認めない判決が出たことに抗議する原告団ら。司法は米軍機の離着陸を日本側が制限する権限はないとの見解を繰り返している=2010年7月29日、那覇市樋川の那覇地裁前の公園

 「支配の及ばない第三者の行為の差し止めを請求するもので、主張できない」

 1994年2月24日。嘉手納基地爆音訴訟で那覇地裁は、騒音被害への賠償は認めたものの、米軍機の深夜・早朝の飛行差し止めを求める住民の訴えを棄却した。この判断は第2次嘉手納爆音訴訟や米軍普天間飛行場の爆音訴訟でも継承されてきた。たとえ日本国内だとしても、日本側には米軍機の離着陸を制限することができないとする司法判断を示したことになる。
 米軍に対する法的な特別扱いが如実に表れたのが、2014年5月と15年7月の厚木基地騒音訴訟の判決だ。横浜地裁と東京高裁は、米軍が管理権を有し、自衛隊が共用する厚木基地について、自衛隊機の夜間・早朝の飛行を禁止した一方、同時間帯の騒音の大部分を占める米軍機の飛行差し止め請求は退けた。同じ軍用機の飛行という行為だが、主体が自衛隊か米軍かで司法の制限に違いが出るねじれを生じさせた。
 しばしば「沖縄の米軍基地面積は実は日本全体の23%」という主張が聞かれる。だがこれは米軍が排他的管理権を持ち、日常的に使用する米軍専用施設だけでなく、「米軍も一時的に利用できる自衛隊基地」を母数に含めたものだ。米軍専用施設の面積で比較すれば沖縄に74%が集中する。
 どちらの施設であれ、主に米軍か自衛隊が使用する軍事施設であることには違いない。だが前記の判決のように、米軍の運用をめぐっては、日本の法規制が適用除外される形で米軍に「特権」が認められ、周辺住民の生活被害が救済されにくい構造が横たわる。
 では「23%説」の母数に含まれる「米軍が一時的に使用可能な自衛隊基地」を実際に米軍が一時利用する場合の運用はどうなっているのか。
 まず自衛隊基地の管理権は日本側が有する。そのため周辺自治体と防衛省が米軍の使用に関する条件を定めた協定を結んでいる事例が多い。これらの協定は、米軍の訓練に「年間何十日まで」と上限を設定したり、訓練内容について、地元への事前通告を義務付けたりするものが一般的だ。通告は訓練の期間、時間帯、使用する航空機や武器など主な機材、参加人数などを知らせている。日本側が管理権を持つことで、米軍の運用に一定の制限が設けられていると言える。
 一方、米軍専用施設の場合は状況が異なる。
 例えば米空軍嘉手納基地や嘉手納弾薬庫に隣接する嘉手納町によると、嘉手納で爆発音やサイレン音を伴う即応訓練やGBS(地上爆発模擬装置)訓練を行う際には、町に内容が事前通知されることもある。だが通知は米軍の義務ではなく、町は「住民から騒音などで苦情があり、確認すると、こうした訓練が行われていたと分かることもしばしばある」という。
 嘉手納では県外や海外にある米軍基地からの外来機の飛来訓練も恒常化しているが、事前通知されることは皆無に等しい。沖縄の米軍基地から本土の自衛隊基地に訓練移転する場合は、その詳細が地元に事前に伝えられるのとは対照的だ。
 深夜・早朝の飛行に関しては、これを規制するために日米が結んだ騒音規制措置も存在するが、守られないことが常態化している。米軍が「飛行は運用上、必要だ」と主張すれば、日本側は制限できない仕組みになっている。
 米軍専用施設の場合、基地内での汚染物質の流出や墜落事故が発生し、周辺地域の生活環境に懸念がある場合でも、米側が許可しなければ日本側は立ち入り調査もできない。
 13年には宜野座村の米軍キャンプ・ハンセンにヘリが墜落する事故が発生し、米軍が行った現場調査で日本の環境基準の74倍に相当する鉛、21倍のヒ素が土壌から検出された。墜落現場から約70メートルの場所には住民の飲料水に使われる大川ダムがあり、村は取水を緊急停止した。
 村は自らも土壌調査などを行うため立ち入り調査を米軍に求めたが、調査が実現したのは事故の4カ月後。しかも土壌採取は認められなかった。県は7カ月後に立ち入りを認められ、その際に初めて、地元による土壌調査が行われた。
 04年に発生した沖縄国際大のヘリ墜落事故では米軍が事故現場を閉鎖し、警察や消防が立ち入りを拒否され、現場が突如“基地外基地”と化す事態も起きている。(島袋良太)