『辺野古の弁証法 ポスト・フクシマと「沖縄革命」』 「二重植民地支配」えぐる


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『辺野古の弁証法 ポスト・フクシマと「沖縄革命」』山口泉著 オーロラ自由アトリエ・1800円+税

辺野古の弁証法―ポスト・フクシマと「沖縄革命」

 本書は、2013年に東京から沖縄へ「避難移住」した一人の作家が、沖縄・琉球と日本国家(本土)、そして日本・沖縄と東アジアとの関係を、鳥の眼(マクロ)と虫の眼(ミクロ)という複眼的な視点で時空を超えて捉え直した壮大な作品である。それはまた、「植民者」である自己を含めた日本人(ヤマトンチュ)の沖縄・琉球と東アジアに対する、明治維新以来、現在まで続く植民地支配と歴史的責任を根源から問い直し、日米両国政府による沖縄・琉球への暴力的かつ不可視の二重植民地支配構造をえぐり出そうとする試みである。

 さらに本書は、ポスト・フクシマを起点とし、辺野古を中心に巨大な暴力に対する沖縄・琉球の人々(ウチナーンチュ)の、人間の尊厳を賭けた抵抗・闘いの意義を明らかにすると同時に、東アジアへの「加害者」としての側面もある沖縄・琉球内部の矛盾と葛藤をも浮き彫りにしようとする弁証法的な構図を持つ。
 福島第1原発事故を契機に、権力とメディアが一体化した「言論統制」状況への対抗として始めたブログ「精神の戒厳令下に」にもあるように、「原発地獄」の主犯であった自民党が強権独裁の座に返り咲いた安倍政権によって、全的・決定的なファシズムが到来している。この国はまさに「死の国」、すなわち肉体・命よりも先に、人々の魂と批判精神とが滅んだ国となっている、といっても過言ではない。
 日本の現状に対する著者の絶望的な危機感と安倍ファシズム軍国主義に対する非妥協的なすさまじい憤り、それとは裏腹の、巨大な不条理・暴力と真正面から闘い続けている沖縄・琉球の人々に対する尊敬を込めた温かい眼差しには深い共感を覚える。本書の全編にある、著者ならではの透徹した観察力と硬軟自在の見事な表現力に基づいた、「人間同士の連帯」と「沖縄革命」の呼び掛けが圧倒的な説得力をもって読む者の心に響いてくる。まさに日本と沖縄が破滅の淵に立たされている今こそ読まれるべき本である。
(木村朗・鹿児島大学教授)
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 やまぐち・いずみ 1955年、長野県生まれ。77年、東京藝術大学美術学部在学中に第13回太宰治賞優秀作を受賞。2013年、東京から沖縄市に移住した。