『沖縄の精神医療』 日本一のモデル県へ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄の精神医療』小椋力著 中山書店・4104円

 A5判で200ページ程度の小ぶりであるが、沖縄の精神保健・医療・福祉の歴史や現状、目標について広く、深く、しかも簡潔に書かれた本が2015年6月に中山書店から出版された。

 著者・小椋力氏は、1984年から2003年までの19年間、琉球大学医学部精神神経医学教室の初代教授を務め、精神医学の研究や教育、啓発、診療活動に尽力した。特に精神疾患の予防についてのわが国の権威であり、研究論文発表や国際学会の開催など多くの実績を残している。また2001年6月、本県の関係機関17団体からなる「沖縄県精神保健・医療・福祉連絡協議会」を設立して、地域精神医療の充実発展を目指している。そして定年後も沖縄に居を定めて教育や診療に従事し、また連絡協議会に「日本一の精神科医療のモデル県をめざす委員会」を設置することを提案している。
 著者は、大阪で生まれ、鳥取県で育ったが、氏が6歳の1945年6月にお父上が沖縄戦で戦死なされたことが、沖縄への強い愛着と、医療貢献への情熱になっているのだろう。
 本書の目次は7章からなり、第1章沖縄県の概要、第2章沖縄県の医療、第3章沖縄の民俗信仰とシャマニズム、第4章沖縄の精神医療の歴史と現状、第5章沖縄における地域精神医療の歩み、第6章沖縄における予防精神医療の歩み、第7章沖縄の精神医学・医療における国際交流、などなどである。
 乱暴な要約だが、沖縄という独特の風土と歴史と環境のもとに沖縄の精神医療がどのように歩んできたか、現在の水準はどのくらいか、そして目指すべき目標は何かを知るための道しるべとなる最良の本である。携帯にも手元に置くにも手頃であり、装丁も簡素で美しく、多くの方々に一読、再読をお勧めしたい。(中山勲・玉木病院院長)
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 おぐら・ちから 1937年、大阪市生まれ。鳥取大学医学部卒。同大医学部助教授を経て、84年から琉球大学教授。98年、同大付属病院長。2003年、沖縄大教授。

沖縄の精神医療 (精神医学の知と技)
小椋 力
中山書店
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