『復活のアグー』 旅食人が書く贈り物


社会
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『復活のアグー』平川宗隆著 ボーダーインク・1944円

 名護市の市立博物館を訪ねると、真っ先に目に飛び込んでくるのが鼻の長い、全身真っ黒な島豚(シマウヮー)、すなわちアグーである。本書は畜産関係の学術博士で、獣医師・調理師および旅食人の肩書を持つ著者の、そのアグーに対する思いの丈を六つの章に分けてつづっている。

 アグーは明治・大正期から次第に姿を消し、戦後にはほぼ消滅しかけたが、最近の関係者の努力で見事に復活した。その「繁栄と消滅、そして復活へ」の経緯を第一章で概括的に扱っている。そして、第二章「沖縄と豚との関係」、第三章「史料に見る食生活と豚」および第四章「戦後の養豚復興」では、食文化の中にアグーを位置づけ、かつその歴史的な展開をより詳しく述べている。また、第五章「アグー時代の屠殺場から近代的な食肉センターへ」と第六章「沖縄料理における豚肉料理の知恵」では、豚肉一般に関する今日的な問題にまで言及している。
 一読してびっくりするほどの幅広い、豊富な資料が用いられている。それらはいろいろな分野からの活用が可能であろう。民俗学の聞き取り調査から一例を挙げよう。沖縄本島北部のある村で昭和10年にトイレと豚小屋一体式のフールからトイレを分離し、そのトイレを衛生便所と称していた。ただ、なぜその時期なのかについての説明は聞けなかった。しかし、著者が見つけた昭和8年の沖縄県衛生課の書類には寄生虫を撲滅するために「養豚兼便所の廃止」が明記されているのである。
 著者は自らを旅食人(がちまいたびんちゅ)と称している。その食する側の視点が一貫しているからであろうか、分かりやすい内容に加えて、独特のユーモアや面白さも漂っている。
 昨年の12月に沖国大で食に関する国際シンポジウムがあり、沖縄側の若い文化人類学者がアグーは決して黒くなかった云々という発言をしたようである。本書はそのような沖縄のアグーを知らない世代への贈り物として打って付けの一書といえる。 (津波高志・琉球大学名誉教授)
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 ひらかわ・むねたか 1945年生まれ、鹿児島大学大学院博士課程修了。動物愛護センター所長、中央食肉衛生検査所所長などを歴任。現在は県獣医師会会長を務める。

復活のアグー―琉球に生きる島豚の歴史と文化
平川宗隆
ボーダーインク
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