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<沖縄基地の虚実8>県外主要基地含め74% 誤った情報 ネットで拡散


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「『沖縄の在日米軍全体の施設面積の約74%が集中』、これは毎日朝刊の社説の一節だ。よく言われるがこれは事実ではない。74%は米軍専用施設の割合であって、その分母に岩国や三沢、佐世保、横田、岩国、横須賀等の自衛隊との共有米軍施設は入っていない。共用施設を入れると在沖米軍施設は約23%」

 2013年2月、現職の防衛政務官(防衛省の政務三役)だった佐藤正久参院議員は、自身のツイッターでこう発信した。
 だがこの発信内容は、佐藤氏自身が政務官を務めていた防衛省の公式見解からも外れる誤った認識だ。その後、佐藤氏の事務所はこの発信について琉球新報に「誤解を与えうる可能性のある発言だった」とした上で「趣旨としては、沖縄だけが基地を負担しているわけではないと言いたかった」と釈明した。
 何が「誤解を与えうる」表現だったのだろうか。
 防衛省によると、佐藤氏が言及した県外にある主要な米軍基地である岩国(山口県)、三沢(青森県)、佐世保(長崎県)、横田(東京都)、横須賀(神奈川県)などは、いずれも日米地位協定に基づく「米軍専用施設」と位置付けられている。
 つまり沖縄にある在日米軍専用施設面積は「全国の74%」という数字を算出する際の「分母」(佐藤氏)から、佐藤氏が挙げた県外の主要米軍基地が除かれている事実はない。全て含まれた上で算出された割合が74%なのであり、沖縄への集中度を水増しする余地はない。むしろ佐藤氏の記述こそ沖縄の過重負担を薄めていることになっている。
 岩国、三沢、佐世保、横田、横須賀、厚木(神奈川県)という県外6主要米軍専用施設の合計面積と、沖縄にある米軍専用施設のうち嘉手納飛行場と嘉手納弾薬庫の2施設だけの面積を比較しても1対1・2と沖縄の2施設の方が大きい。いかに沖縄に広大な米軍基地が集中しているのかが分かる。
 ではインターネットや「嫌沖縄本」などでしばしば誤った形で引用されている「全国の23%」の数字と「共用」という言葉は何を指しているのか。そのヒントは防衛省が用いる「在日米軍施設」と表現する基地の分類にある。
 防衛省が「在日米軍施設」と表現している基地は三つに分類できる。
 (1)米軍が単独で使用する米軍基地(日米地位協定2条1-aで規定)(2)米軍の「正規の使用目的にとって有害でない」など一定の条件の下に、自衛隊に使用を認める米軍基地(同2条1-aと同2条4-aで規定)(3)一定の期間を限って、米軍が使用することができる自衛隊基地(同2条4-bで規定)-となる。
 つまり「米軍しか使わない米軍基地」「自衛隊も使える米軍基地」「米軍も一時的に使える自衛隊基地」の3種類だ。
 防衛省はこのうち(1)と(2)を「米軍専用施設」と法的に位置付けている。そしてこれらは沖縄に全国の74%の面積が集中する。一方、(1)(2)(3)の全てを合わせると、沖縄にある米軍基地は「全国の23%」まで比重が小さくなるのだ。
 このうち(2)と(3)は米軍と自衛隊が法的に基地を「共用」できることに違いはないが、そこには「米軍基地」と「自衛隊基地」という根本的な違いがある。つまり米軍基地と呼ぶのは(1)と(2)であり、それらの面積で数値を導き出すことが一般的だ。
 米軍専用施設((1)と(2))の場合、米軍が基地の排他的管理権を持ち、その運用で日本の法制度が適用除外される特権が認められている。それに比べて自衛隊基地は日本の法律が適用され、米軍がそこを一時利用する場合にも、基本的に日本の管理権に沿った対応となる。こうした運用面でも「米軍基地」と「自衛隊基地」では大きな違いが生じている。
 冒頭の佐藤氏のツイッターには当時「なるほどそうですか。沖縄から米軍基地を撤去させるために、日本のマスコミが情報操作をしているのでしょう」といった投稿が続き、インターネット上で共有(リツイート)された。つまり事実に基づかない佐藤氏の誤った情報がネット上を中心に拡散されてしまったのだ。
 沖縄の基地問題に詳しい沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は、佐藤議員が当時、防衛政務官だったことに触れ「環境相が東京電力福島第1原発事故後に国が定めた除染の長期目標を『何の科学的根拠もない』と発言して問題となったが、これも同じ構図だ」と指摘する。「この『23%』という数字があちこちで一人歩きしている一方で、責任ある立場の人が、事実に基づかないことを広げている。防衛省自らが作成した資料を見ればすぐに分かることだ。沖縄への基地集中はうそだと主張するための意図的な発信だとすら疑ってしまう内容だ」と批判する。(島袋良太)