『沖縄県史 各論編8 女性史』 生活再構成し、歴史描く


社会
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『沖縄県史 各論編8 女性史』県教育庁文化財課史料編集班編 沖縄県教育委員会・5000円

 沖縄県史の女性史が刊行された。重厚な巻を手にして「もうすんだとすれば、これからなのだ」という、まどみちおの撞着(どうちゃく)語が思い浮かんだ。

 宮城晴美氏の「総論」によれば、1970年代が在野の研究グループ誕生に始まる女性史のエポックであったというから、77年に終了した最初の県史事業に、女たちは間に合わなかったのだ。こうして女性史が県史に組み入れられるのに、94年に始まる2回目の歴史編集事業を待たねばならなかった。その上、巻末の「編集経過」によれば当初計画の全4巻から1巻に規模を縮小されるなどの曲折を経ている。だが上梓(じょうし)された本書は、執筆者総勢42名による豊穣(ほうじょう)な記録集成となった。この重大なくさびを打つために二十余年をかけた関係諸氏に、まずは心底からの敬意を表したい。その上でここでは「女性史」編さんの意義に照らした特徴を二つだけ挙げる。
 第一に、女たちの経験を軸として構成されたことが時期区分に明瞭に現れている点である。琉球・沖縄史を分節するのは、「復帰」も含めた政治外交的「処分」だけではないという斬新な提言となり得ている。第二に、史資料の限界がある中で、書かれなかった歴史を「読む」技術が駆使されている点だ。禁止や禁忌、生存の経済など、公式の政治が捉え損なってきた記録の向こう側に人々の生活を再構成しようとする技術は、女に限定されない新しい歴史の書き方を、これから拓(ひら)いていくための嚆矢(こうし)となろう。これから、なのだ。
 一読すると、緻密な史資料調査に基づき入念に練り上げて完成された論考と、まずは出来事として県史に刻まれたという意味で記録的価値それ自体であるものなどが混在している。また、女性の視点、すなわち権力とは対極の位置から眼差す歴史を書こうとする創意工夫に満ちた文章がある一方で、歴史に垣間見える女性の姿を「発見」して公式の歴史に付け加えたにとどまるものも散見された。
 取り上げられた多彩な題材に沿った専門的評価も含め、今後さまざまな機会に批評されることを期待したい。そう、これからなのだ。
(阿部小涼・琉球大学教授)
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 沖縄県史編集事業 沖縄県は1993年度から新県史編集事業に取り組む。女性史は各論編の考古、近世、古琉球、近代、自然環境に次いで6冊目の発刊となる。