識者に聞く・争点と意義(4) 我部政明氏


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米軍属事件は政治問題

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設が有権者に分かりやすい形で争点となる場合と、あいまいになる場合がある。今県議選で候補者と有権者が基地問題をどう問うかによって決まる。

 辺野古移設に対する立場を明確に訴えた候補が多数当選した場合、移設に対する県民の声が反映されたと判断できる。一方、明確に訴えなかった候補が多く当選した場合は移設に関する民意とは言えない。選挙結果から、基地問題への民意を巡って投票前と異なる解釈がされ得る。

 ただ、争点は辺野古のみではないことも考慮に入れるべきだ。辺野古移設を巡る議論は県政全体の大きな課題だが、知事選などと違い、選挙区が分かれる県議選では各地域特有の課題も大事な争点となる。

 米軍の活動範囲の広さを考えると、基地問題は県内いずれの地域でも重要な課題だ。とはいえ、その度合いは選挙区によって濃淡がある。名護市や宜野湾市の区などでは有権者の当事者性が強く表れる一方、離れた宮古島市区や石垣市区ではそれほどではない。

 米軍属による女性遺棄事件は選挙結果に影響を与えるだろう。「もしかしたら私が巻き込まれていた」という可能性を突き付け、地域社会を不安に陥れる衝撃を与えたからだ。「個人の悲しい事件だから、政治利用してはいけない」という声もあるが、安全に暮らすという視点から党派を超えて政治が取り上げるべき問題だ。県議選で与野党のいずれかの追い風となることはない。

 県警は米軍関係者かどうかに関わらず、罪を犯した人を取り締まる。県議会には、県民に対する責任として果たすべきことがある。この事件のみではなく、過去に同様な事件があり、犠牲者を出してきた。与野党を問わず、時代を眺めていれば誰もが認識しているはずだ。

 選挙を目前に控え、抗議決議の文言や県民大会開催などを巡って政党間で譲れない点があるのは仕方がない。だが、琉球新報1日付に掲載された緊急アンケートでも分かるように、米軍基地の駐留状況や日米地位協定について現状で構わないと思っている候補はいない。意見の違いを認め合う民主主義社会の中で、事件に対して「何とかしなければならない」と全候補が考えているという共通点の方を重く見るべきだ。(琉球大教授 国際政治学)