供述拒否で難航 県警、状況証拠重ね再逮捕 米軍属女性暴行殺人


この記事を書いた人 新里 哲

 米軍属女性暴行殺人事件は9日、元米海兵隊員で米軍属の容疑者(32)=与那原町=が殺人と強姦(ごうかん)致死の容疑で再逮捕されたことで新たな局面を迎えた。本人の供述が得られない中、県警は9日も同容疑者宅を家宅捜索するなど、起訴に向けて執念の捜査を続けている。県民からは「正直に話してほしい」など、事件の全容解明を強く求める声が上がった。

 「必ず被疑者を摘発するんだという思いで現在まで捜査を進めている」。容疑者(32)が勾留されているうるま署で9日に開かれた記者会見には、県内外のメディア関係者約50人が詰め掛けた。渡真利健良刑事部長は「届出の段階からできる捜査を尽くしてきた。県民の皆さんの心配もあったと思う。県民感情も踏まえ、『必ず解決するんだ』という捜査員の気概がある」と毅然(きぜん)とした表情で話した。

 「事件については話しません」。5月20日、容疑者が供述拒否に転じた。容疑者は前日の19日、任意の事情聴取に対して「乱暴目的で女性を狙った」「刃物で刺した」など、殺害や乱暴の状況を含めて自供し、死体遺棄容疑で逮捕されていた。「ほぼ完落ち」(捜査関係者)からわずか1日での供述拒否に、県警特別捜査本部には動揺が広がった。

 県警は当初から殺人容疑での立件を目指していたが、供述が得られなくなったことで物証の収集が大幅に遅れた。通常の事件捜査では、容疑者の供述から凶器など犯行に使用された物を発見し、DNA鑑定などで事件との関連を証明することで、真犯人しか知らない「秘密の暴露」を積み上げていくのが常道だ。

 しかし今回の事件では供述が得られず刃物は現在も見つかっていない。捜査関係者は「19日は、とにかく女性を早く発見してご家族の元に帰すのが最優先だった。翌日から供述拒否するとは考えてもいなかったので、刃物の投棄場所など細かい供述は取っていなかった」と振り返る。刃物の購入履歴も調べたが、家宅捜索では複数の両刃ナイフが見つかり、もともと多くのナイフを所持していた可能性があるため事件に使用された刃物の特定には至っていない。

 事件発生から時間が経過していることも捜査を難航させる要因となった。遺体を入れたスーツケースについて容疑者は当初「キャンプ・ハンセン内に捨てた」と供述。県警は米軍基地内のごみが集まるうるま市内の最終処分場で1週間余り捜索し、複数のスーツケースを回収した。しかし高温多湿の状況に約1カ月間放置されていたため、腐食が進みDNA鑑定は難しいとみられる。

 水路から発見された棒も供述と特徴が似ているが、捜査関係者は「水中に数週間置かれて痕跡が出るとは考えにくい」と話す。

 供述が得られない焦燥感の中、県警は犯行現場や遺棄現場までの道中に点在する防犯カメラの徹底的な精査や携帯電話の位置情報解析、100人規模での捜索など「近代的かつ原始的な捜査」(捜査関係者)を通じて状況証拠を積み重ね、再逮捕までこぎ着けた。

 「再逮捕で終わりではなく、今日からが山場だ。たとえ供述拒否が続いても、絶対に事件の全容を明らかにする」。捜査関係者は強い決意を口にした。