『Q&A 辺野古から問う日本の地方自治』 基地問題の「今」解き明かす


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『Q&A 辺野古から問う日本の地方自治』本多滝夫編 自治体研究社・1200円

 「辺野古」。この沖縄本島北部、太平洋に面した大浦湾岸の小さな地域が今、米軍基地問題の熱い焦点となっている。沖縄の恒久的軍事要塞(ようさい)化を図る日米両政府は、県民世論の一貫した反対にも聞く耳を持たずに、「普天間」飛行場の危険性をむしろ脅し文句として、辺野古で巨大基地の建設工事を強行する。問題が解決しない根本の原因はそこにある。

 この問題の今の今を解き明かそうとするのが本書である。著者たちは、行政法学者4人と森林保護学者であるが、いずれも研究の第一線にあって、社会的発言にも積極的な気鋭ぞろいである。辺野古問題は法的な紛争であるとともに、大浦湾の生態系保存を重要課題としており、自然科学者が加わったことで問題の全体像がつかみやすくなっている。

 安倍政権の法の悪用ぶりはすさまじい。海面の埋め立て承認を国(公権力)の立場で得ておきながら、翁長知事がこれを取り消すと国民(私人)の権利救済のために設けられた行政不服審査制度を、私人になりすまして利用する。また、知事の取り消しを覆えさせようと、憲法・地方自治法の定める国と地方の対等関係の大原則を破り、上位者として代執行を迫ってくる。

 国と県の間の訴訟は政府の横暴と沖縄の抵抗の産物であって、泥仕合ではない。今、その訴訟が「和解」へ進み、局面が一層複雑になっているが、著者たちによる解説は分かりやすい。それは、人間の尊厳と相いれない米軍基地をこれ以上つくらすまいという情熱と、辺野古新基地はもはや客観的につくれないという認識に裏打ちされているからである。解説を支えるものとして、今年3月23日までの問題の経過を正確に記した年表が付いている。これを絶えず参照することで理解が一層図られると思う。

 4月28日、沖縄では「屈辱の日」に行方不明となった女性が、米軍基地を発生源とする凶悪犯罪によって命を奪われた。県民世論は、海兵隊撤退・全基地撤去、地位協定改定を要求する新しい段階に進んでいる。本書が、只(ただ)今の基地問題を知る最も頼りになる作品として、早く多くの読者に迎えられることを切望してやまない。
(小林武・沖縄大学客員教授)

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 編者と著者 本多滝夫(ほんだ・たきお)龍谷大学法科大学院教授、白藤博行(しらふじ・ひろゆき)専修大学法学部教授、亀山統一(かめやま・のりかず)琉球大学農学部助教、前田定孝(まえだ・さだたか)三重大学人文学部准教授、徳田博人(とくだ・ひろと)琉球大学法文学部教授。

Q&A 辺野古から問う日本の地方自治
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