『沖縄文学論』 若い人たちへのメッセ-ジ


社会
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『沖縄文学論』 大野隆之著 編集工房・3780円

 本書は、2015年3月30日に逝去した大野隆之氏(沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科教授、享年54歳)の論文集である。タイトルからも分かるように、沖縄を代表する作家である大城立裕氏についての論考を主軸として、「『オキナワの少年』試論-〈マイナー文学〉の視座から」を始めとした沖縄文学論、そして、沖縄文学を網羅するかのような文芸時評および書評という構成になっている。

 全体を通して、沖縄と本土の架け橋を担おうとした作家たちの戦略的な試みを捉えようとする意識と、それらを沖縄の若い人たちへ伝えていく方法の模索という大野氏の研究姿勢が貫かれている。

 例えば、大城立裕を「ヤマトに発信していく、という志向性を強く持った言説」を一貫して持った立場の作家であると位置付け、「滅びゆく琉球女の手記」の著者である久志芙沙子に関しては、彼女の「本質的には、何らの差別もない、お互い東洋人だと信じております」という言葉を引用しながら、その先駆的思想の源泉を辿ろうとする。

 さらに「ウルトラマン」の生みの親である金城哲夫研究には、東京で生まれ、東京で成功したにも関わらず、人生の晩年には、その成功を自身のルーツである沖縄のために捧(ささ)げようと尽力した彼の人間性への強い関心がうかがえる。そして、大野氏の金城哲夫研究には、もう一つ別の側面が垣間見える。それは、大城立裕全集の出版にあたって奔走し目の当たりにした文学の出版状況の衰退、それに取って代わるアニメーションや漫画の隆盛と、大学における文学教育の在り方との関係である。横断的な沖縄文学研究の方法として、大野氏は「ウルトラマン」という広い入り口を沖縄の若い人たちへ用意したのかもしれない。

 このように、研究者である以前に優れた教育者でもあった大野氏の文章は、軽やかに深く、そして常にカジュアルな印象を忘れない。それゆえに本書は、沖縄文学研究の入門書としても読める一冊に仕上がっている。
(伊野波優美・沖縄文学研究者)

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 おおの・たかゆき 1962年長崎県生まれ。94年に沖縄国際大学に専任講師として赴任、同大学助教授、教授などを歴任。10年には沖縄文化協会「仲原善忠賞」を受賞。

沖縄文学論―大城立裕を読み直す
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