【島人の目】ローマに女性市長誕生


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 〈永遠の都〉ローマに史上初の女性市長が誕生した。19日投開票の市長選で当選したのはビルジニア・ラッジさん。弱冠37歳の弁護士である。彼女は既成政党に激しく異議を唱える「五つ星運動」に所属している。

 「五つ星運動」は、お笑い芸人のベッペ・グリッロ氏が、2009年に立ち上げた。その理念はインターネットを駆使してイタリアの既存の政党や政治家を厳しく断罪し、同時にネットを通じてグローバルなコミュニケーション・ネットワークを構築。将来は世界政府を樹立する、という壮大なものである。

 理想主義的過ぎるとも見えたその運動は、意外にも若者を中心に多くの人々を引き付けて、イタリア政界に旋風を巻き起こしている。ローマ市長選挙でもその力を遺憾なく発揮した形になったが、今回の場合は少し事情が違う。

 ローマは過去2000年余にわたって欧州の精神の核の一つを形成してきた古代都市であり、その間は皇帝や貴族や執政官や元首やローマ教皇など、常に男性支配者のみが君臨してきた。それは欧州における男尊女卑の社会風潮の象徴でもあった。

 例えばパリやロンドンやニューヨークなどの、欧米の他の大都市で女性市長が誕生しても、もはや誰も驚かない。それらの都市は既に十分に近代的で「男尊女“尊”」の社会環境がつくられているからだ。

 ローマは違う。さりげなくかつ執拗に男尊女卑の哲学を貫くカトリックの総本山バチカンを擁する現実も手伝って、他の欧米諸国の都市のように速やかには近代的精神を獲得できずに来た。それが初めて転換したのである。

 古い価値観に縛られた古代都市に、女性のトップが誕生した快挙を、ここイタリアはもちろん世界中の多くの人々が祝福している。
(仲宗根雅則、TVディレクター)