父鳥から歌学ぶ鳥の細胞発見 ヒトが言葉を覚える手掛かりに OIST柳原氏ら研究


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キンカチョウの家族。右から父鳥、母鳥、幼鳥(OIST提供)

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)臨界期の神経メカニズム研究ユニットの柳原真研究員と矢崎―杉山陽子准教授はこのほど、幼鳥が親鳥の歌を学ぶ際に、歌の記憶を担う神経細胞が脳内に現れることを突き止めた。聴くという経験が記憶として形成される仕組みの一端を明らかにしたもので、人間が言葉を覚える際の脳内の仕組みの解明にもつながるという。

 研究成果は6月22日に英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。

 研究にあたっては、歌を学習するソングバードの一種、キンカチョウの親子を用いた。キンカチョウの幼鳥は、父鳥の歌を聴いて覚え、繰り返し練習することで父鳥の歌に似た自分の歌を歌えるようになる。柳原研究員らは、父鳥の歌を学習することで幼鳥の脳内のどこで、どのように記憶が形成されるかを調べた。

研究結果について会見する(右から)柳原真研究員、矢崎―杉山陽子准教授=県庁

 柳原研究員らは聴覚情報を担う大脳聴覚野という領域に着目し、神経細胞の活動を計測した。父鳥の歌を聴いたことのない幼鳥の神経細胞はさまざまな歌に反応したが、父鳥の歌を学習した幼鳥では父鳥の歌にだけ強く反応する神経細胞が発見された。父鳥の歌を学習することで、大脳聴覚野の神経細胞が変化し、聴いた歌の記憶を担う神経細胞が現れるという生理学的証拠を初めて示したことになるという。

 また、活動を抑制する神経伝達を遮断すると、覚えた父鳥の歌以外にも反応するようになり、柳原研究員は「記憶を担う細胞ができる過程では、抑制系の神経回路が重要な役割を果たすと考えられる」とした。

 研究成果について柳原研究員は「発達期の経験によって脳の神経回路が形成され組み変わっていく仕組みの解明につながる。子どもの脳が健やかに発達するための手掛かりが得られると考えている」と話した。