【島人の目】女優・岸恵子さんのこと


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 映画「君の名は」は1953年に「松竹」が映画化し、東京の数寄屋橋での岸恵子演じる真知子と佐田啓二演じる春樹の恋人同士のすれ違いを描き、一躍有名になった。その前年、ラジオドラマで大ヒットし、放送時間帯になると銭湯ががら空きになったとの評判になったほど一世を風靡(ふうび)した。

 女優の岸恵子さんは優れたエッセイストで小説家でとしても活躍している。第42回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、エッセー集2冊、小説も3作品を出版している。

 エッセイストクラブの会報誌「2016年夏号」に「パリ郊外の点描」と題してエッセーを書いている。岸さんは横浜生まれ、女優として活躍するかたわら、フランスのソルボンヌ大学に学び、さらにフランス人と結婚するなどフランス滞在が長かった。現在は日本に住んでいるが、最近は娘の子、2人の孫兄弟に会うため、フランスを訪れた時の思い出をエッセーにしたためている。

 フランスの郊外、「マリー・キューリー」というメトロの駅、のびやかな雰囲気の町、つまりキューリー夫人の名を冠した場所、当然キューリー夫妻の研究所のある所である。

 13歳になる弟孫が2、3人のチンピラに囲まれ脅されスマートフォンや所持金(約13万円)を分捕られた話、そして柔道黒帯の兄孫だったらどうしただろうとの性格の違いにも触れている。結局兄孫も「僕は負ける喧嘩はしないよ。弟と同じことをしたよ」と言われて、岸さんはほっとしたという。

 子どもたちには脅しに負けない勇気と、かなわないと思ったら無抵抗で「負けるが勝ち」を取る免疫力が付いているらしいと少し安心した様子。

 岸さんは最近のリュクサンブルグ公園の悪環境ぶりが目にあまるという。麻薬売人やテロの恐怖、ギャングの横行のことだろう。若かりし頃に胸をときめかした同公園の変わりように胸を痛めている。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)