ヤンバルクイナ、ゲノム解読を成功 繁殖や保護に期待 国立環境研など


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国指定の天然記念物で、絶滅危惧種に指定されているヤンバルクイナ

 絶滅危惧種で国の天然記念物に指定されているヤンバルクイナのゲノム(全遺伝情報)の解読に、国立環境研究所(茨城県つくば市)などの連携研究グループが成功した。今後、個体同士の遺伝的関係性や病気耐性の解明などを通してヤンバルクイナの保護・保全に役立てられることが期待されている。同研究所生物・生態系環境研究センターの大沼学主任研究員は「個体の遺伝的な多様性を維持しながら繁殖させるために必須の情報になる。登山で言えば地図を手に入れた状況だ」と説明した。

 国内にのみ生息する絶滅危惧種のゲノム解読自体は初めて。1日、遺伝情報の構成元である塩基配列データを収集する「DDBJ(日本DNAデータバンク)」で公開した。同研究所のほか京都大学、酪農学園大学が研究に携わった。

 ゲノム解読は2011年ごろから国立環境研究所が本格的に着手した。凍結保存されていたヤンバルクイナ2個体の細胞を使い、次世代シーケンサーと呼ばれる装置で塩基の配列を解析するなどした。

 ヤンバルクイナの保護現場関係者からも期待の声が上がる。環境省やんばる野生生物保護センター(国頭村)の山本以智人自然保護官は「病気になりやすいなどで飼育が難しかった個体も残せるかもしれない」と話す。個体間の近親交配で「血が濃い」状態になると繁殖が難しくなるとされる。国頭村世界自然遺産対策室の担当者は「(遺伝情報が知れることで)安定した繁殖に役立つ」と話す。

 ヤンバルクイナは本島北部のやんばる地域のみに生息しており、1981年に新種として論文に記載された。現在は約1500羽いると推定されている。環境省は2006年に同種を最も絶滅の恐れの高い「絶滅危惧IA類」に分類した。

<用語>ゲノム
 親と似た性質を子に伝える「遺伝」の元になる情報。細胞核の中に、2本一組の鎖状のDNAという分子があり、鎖には塩基という物質が並ぶ。塩基はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類で、その並び順(配列)が遺伝情報になる。配列に従って10万種類のタンパク質や酵素がつくられ、体を形作る60兆個の細胞の材料になったり、体の働きを制御したりする。