「はいたいコラム」 笹に支えられたます寿司


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 島んちゅのみなさん、はいたい~! 仕事で富山県へ行った際に、富山市の運営する直売所「地場もん屋」へ立ち寄りました。直売所というとたいてい郊外にあるものですが、こちらは道の駅ならぬ「まちの駅」。総曲輪(そうがわ)という繁華街のアーケードの中にあり、市街地の活性化にも一役買っています。新鮮野菜や富山湾の魚介の昆布〆(じめ)が並ぶお総菜コーナーの一角に笹(ささ)の葉を発見しました! 10枚250円で売られています。

 富山にはサクラマスの押し寿司(ずし)を笹の葉で包んだ「ます寿司」があります。富山ます寿し協同組合に加盟するお店は14軒ありますが、お総菜と一緒に笹の葉が売られているということは、各家庭でます寿司を作る風習が、今なお残っている証拠です。全国を旅していて面白いのは、こういう地元ならではの食文化や生活感に触れる瞬間です。

 以前、青森を訪ねた時、道路脇の店舗や事務所に「袋」とか「袋あります」という貼り紙を何度となく見掛けました。勘のよい読者の皆さまならもうお分かりですね。そうです! リンゴを覆う袋を扱っていますよ、という貼り紙なのでした。見渡す限りリンゴ畑が続く青森ですから、袋と言えばリンゴに決まっているのでしょう。

 ます寿司の産地では笹が商品になり、リンゴの産地では袋業界が発展する。これぞローカルらしいビジネスです。

 お土産に頂いたます寿司の笹の葉を開くと~、鮮やかに広がる桜色のマス! その下にぎゅうっと詰まった酢飯。がぶっと頂くと、肉厚のマスのうまみが口の中に広がりま~す。

 ところで、ます寿司を包んでいるのは、笹の葉だけではありません。杉板の曲げ輪っぱに、輪ゴムで止めた上下4本の竹の棒、いずれも里山にある森林資源ばかりです。ます寿司が売れれば、この竹材や杉材のために里山の手入れが進むという好循環を生み出しているのです。こうした営みは「グリーン経済」と呼ばれ、持続可能なビジネスとして見直されています。

 もともとマス漁が盛んだったことから広まった富山のます寿司。最近は漁獲量が減り、養殖に押されているという現状もあります。しかしこうした郷土ビジネスは地元に愛され続けるでしょう。自社だけでなく周辺産業みんなで「笹」え合えば~、ますます商売繁盛というわけですね。(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、3日曜掲載)

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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。