『琉球独立への経済学』 立ち位置、明確に自覚


社会
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『琉球独立への経済学』松島泰勝著 法律文化社・2700円

 本書は、今まさに時宜を得た出版である。「独立」は琉球にとって見果てぬ夢である。しかし独立は領土紛争を連想させ、理想だが不可能とされてきた。「自己決定権」が今ほどポピュラーでなかった80年代には独立論も「居酒屋独立論」と揶揄(やゆ)された。

 しかし、先のスコットランドでの住民投票や今回のイギリスのEU離脱の国民投票が現実に実施された結果、琉球の自己決定権の行使は、投票という民主的かつ平和的な手段で実現可能と受け取られている。方法論的には琉球の「独立」も夢物語ではなくなっている。本書は著者が4年前に琉球ナショナリズムを説いた「琉球独立への道」の姉妹編。その刺激的なタイトルもさることながら、著者の立ち位置の明確さは際立っている。

 著者は「私は琉球の島々で生まれ育ち、自らを琉球人であると自覚し、独立を希求するという政治的、思想的ポジションを有している。私という主体が、琉球独立について客観的な手法で考察し、植民地経済から解放されるために琉球独立が有効な選択肢であることを論証していきたい」と言明している。評者には、著者のこの「使命感」が本書の最大の特徴だと思われる。従って著者の意図が成功したか否かは読者の評価を待つとして、現状を憂う人々にはぜひ前著と共に本書を手に取ってほしい。特に琉球独立論に懐疑的・批判的論者には薦めたい。なぜなら、自らの立ち位置をいや応なく自覚させられるからだ。

 評者は「琉球独立」を三つのキーワードで捉える。「相似」「時間」「融合」である。琉球と日本は地政学的にも構成員のメンタリティーでも相似だ。1879年の併合以来の歴史があり融合も刻々進む。「自己決定権」の行使には大きく影響する。復帰を希求した世代、復帰に失望した世代、復帰後の世代、県民も一様ではない。この多様な県民が「琉球人」になるために必要な「独立のコスト」が分かる「琉球独立への経営学」も著者に期待したい。
 (比嘉良彦・政治アナリスト)

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 まつしま・やすかつ 1963年、石垣島生まれ。那覇高、早稲田大学政治経済学部卒、同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。著書多数。2013年、「琉球民族独立総合研究学会」共同代表に就任。

琉球独立への経済学: 内発的発展と自己決定権による独立
松島 泰勝
法律文化社
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