『久米島の「沖縄戦」』 虐殺の史実、継承へ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『久米島の「沖縄戦」』大田昌秀著 沖縄国際平和研究所・1728円

 鉄血勤皇隊の体験を持ち、かつ沖縄戦研究者として多数の本を執筆している著者がいつ「かけがえのない」「愛してやまない」生まれ島である「久米島の沖縄戦」を出版するのかと思っていただけに、待望の書である。著者が久米島高校で講演した際、高校生が地元で起こった住民虐殺事件を誰一人知らないことにショックを受けたことが本書を書く動機となり、「このおぞましい事件を後世まで継承して二度と再びこの種の非人間的事件がいかなる場所でも発生させてはならない」という信念が出版を後押したのだろう。

 「久米島の沖縄戦」といえば、真っ先に鹿山部隊による住民虐殺が浮かぶ。これ以外の戦争はないと思っている人は意外に多い。本書は、断続的な米軍の空襲による「戦時下の久米島」や、沖縄本島とは異なる「久米島における軍政」、核心部分である「鹿山隊と住民の関係」「鹿山隊の住民虐殺の真相」ではリアルで臨場感のある記述をしている。さらに証言・民間人の日記・役所日誌・鹿山部隊や米軍の史料を重ね合わせることで、「久米島の沖縄戦」の全容を史実として明らかにしている。

 本書で注目したいのは、「二七年目の久米島事件」「久米島事件、その後」の章である。この章では、「久米島住民虐殺事件」を初めて全国に報道した『サンデー毎日』や『琉球新報』『沖縄タイムス』の記事、具志川村議会の抗議声明文、TBSで鹿山と久米島の関係者がテレビ対決した番組の記録、国会論争の記録が収録されている。これらは復帰の年の記録である。その後の歴史を知ることは大事である。

 筆者はその年、1972年の4月に新卒の教師として久米島高校に赴任した。ビラがまかれ、住民集会も開催されていた。筆者自身も生徒から「久米島住民虐殺事件」の質問を受け、全校生討論集会でもこの事件が議論された。島はこの事件に向き合っていた。

 沖縄戦から71年、島が住民虐殺事件に向き合っていた時から44年がたった。本書を通していま一度「久米島の沖縄戦」が継承されることを期待したい。
(吉浜忍・沖縄国際大教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 おおた・まさひで 1925年、久米島生まれ。45年、県師範学校在学中に鉄血勤皇隊に動員された。琉球大学法文学部教授を経て90年から2期8年、県知事を務めた。