『「花ゆうな」第22集』 観察眼と人生観 光る歌集


社会
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『「花ゆうな」第22集』花ゆうな短歌会 新星出版・2000円

 花ゆうな短歌会による22冊目の合同歌集。第1章には会員32人の歌が並ぶ。戦後70年ということもあり、自身または家族の戦争体験や県民大会、辺野古移設、慰霊の日に「みるく世がやゆら」と日本全国に問いかけた高校生の姿を題材にしたものなどがあった。詠いぶりの多くは平明で、暮らしのあちこちに細やかな観察眼を働かせていることがわかる。作品背後にさりげなく作者の人生観が見え隠れするあたりは、実に見事である。花ゆうな短歌会には歌歴の長い会員も多く、短歌という器がその人の積み重ねた時間をも味方につけてくれるものであることを作品が証明している。会員の作品の中から特に印象的だった歌を挙げてみたい。

 星形の小さき花びらペンタスのこぼれて朝の空気を乱す 永吉京子

 戦終はり再開したる小学校手ぶらで登校せし日々ありき 宮城鶴子

 一度はついてもみたし真っ赤な嘘夏を彩る朱の山丹花 銘苅真弓

 ふつふつと藷煮れば藷の匂ひせり少年の日の貧しき匂ひ 本村隆信

 さりさりと沖縄ぜんざい崩しつつ「独立論」など語る真昼間 湧稲国操

 言ひすぎをかすかに悔いてまた少し肯定しつつひと日は終はる 神里直子

 血の匂ふ泥水飲みて戦場を生き来しと媼はきつぱりと述ぶ 比嘉美智子

 第2章は戦後70年特集として、嶋津与志による寄稿「戦跡に刻まれた鎮魂歌」と会員の山田恵子と前城清子のエッセーが収録されている。嶋の戦跡歌碑についての評論は、今後これらを研究する者たちの貴重な資料にもなることであろう。山田の兄姉の思い出、前城の戦争孤児としての辛い体験を読み進めていくうちに、戦争が決して遠い過去のものではないことがわかる。戦争体験者も少なくない花ゆうなの合同歌集には貴重な沖縄の声が詰め込まれている。沖縄、本土と問わず、ぜひ多くの方に読んでいただきたい。
(佐藤モニカ・歌人、小説家)