『法廷で裁かれる沖縄戦』 補償の二重基準に迫る


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『法廷で裁かれる沖縄戦』瑞慶山茂編著 高文研・各5400円

 戦後、日本では、現在までに50兆円以上が投じられ、元軍人・軍属とその遺族に対して手厚い補償が施されてきた。一方で、民間人の戦争被害に対して国は「全国民が等しく受忍すべき」との論理の下、一部の例外を除いて補償に応じてこなかった。そのような日本の戦後補償のダブルスタンダードにくさびを打ち込もうとしたのが、2012年8月、沖縄戦で被害を受けた民間人や遺族が、国に対して謝罪並びに損害賠償の支払いを求めて集団提訴した沖縄戦被害・国家賠償訴訟である。

 本書は、この沖縄戦訴訟の弁護団長である瑞慶山茂弁護士が中心となり、現在までの訴訟の記録をまとめたものである。訴状編と被害編の2冊に分けて刊行されたが、訴状編では、提出書面で462ページにも及んだという訴状に加え、行政法学者の西埜(にしの)章氏が国の主張を批判的に検討した意見書・陳述書の要約も収められている。訴状では、沖縄戦研究の成果が十全に踏まえられた上で、沖縄戦による県民の人的・物的被害の実相とその責任の所在が詳(つまび)らかにされており、その労に敬意を表したい。

 本訴訟にあたって、原告79人の中で39人が精神科医の蟻塚亮二氏の診察を受け、その内37人が心的外傷後ストレス障害などと診断された。平均年齢80歳を超える原告の心的被害の実態は、その内実を検証した蟻塚氏による論考(訴状編)と鑑定書(被害編)に詳しい。さらに、被害編に収録された原告79人の陳述書を読むことで、一人一人の心の痛みを具体的に知ることができる。これら被害者の証言の数々に触れることで、「沖縄戦は終わっていない」という言葉の重みを実感することになるだろう。

 本書では、沖縄戦訴訟の意義として「被害継承運動」と「被害回復運動」が挙げられている。前者に関しては自治体史や市民運動などによる蓄積が大きいが、後者に関しては十分ではないと瑞慶山氏が述べる通りである。被害者の本願は、国からの謝罪を通して、個々人が奪われてきた尊厳の回復にあるのだということに思い至らざるをえない。(北村毅・大阪大学准教授)

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 ずけやま・しげる 1943年、南洋群島パラオで生まれる。琉球大法文学部卒。千葉県弁護士会会長、日本弁護士連合会理事などを歴任。沖縄戦被害・国家賠償訴訟弁護団長。

法廷で裁かれる沖縄戦 【訴状編】
瑞慶山 茂編
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