『沖縄自立の経済学』 「自立」論議の契機に


社会
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『沖縄自立の経済学』屋嘉宗彦著 七つ森書館・2376円

 沖縄は、なぜ経済の自立にこだわるのか。はたまた政治的独立も視野に入れた経済の自立とは。定義や内容が不明確なまま、最近では沖縄独立論もかまびすしく自立を巡って迷走が続いている。こうした状況下での本書の刊行を、実りある議論につなげたい。

 著者は、沖縄経済の歩みは復帰により国土計画に組み込まれ「公共事業依存体質という病」に陥ったと総括する。その後、国土の均衡ある発展ではなく、地域の特性を生かした発展へとかじが切られる中、「沖縄は自ら立案し実行する形を取れなかった」と手厳しい。国が策定した振興計画ではなく、本来沖縄の未来図は県民自ら描くべきとの決意の下、21世紀ビジョン基本計画を策定して4年が経過した。批判に応えるためには、実行性の確保が求められることになる。一括交付金を活用した戦略的かつ効果的な事業創出に英知を結集しなければならない。

 一方、沖縄経済の成長は自立につながらず、逆に中央への従属性が強まるだけと評する識者も多く、これを脱するには「沖縄住民が実行できる具体的な行動の指針」が必要だ、と指摘する。経済成長を自立につなぐための民間企業・個人の経済行動の指針とは。本書も触れているが、かつての行政が先導する自立への道は社会主義に至るのでは、と提起されたことがある。新自由主義が席巻する時代にあって、議論を深めるべき最優先のテーマなのかもしれない。

 ちなみに経済の現況は、21世紀ビジョンで掲げた人・モノ・情報の拠点形成に向かって、観光、物流、IT産業が活況を呈している。その中で、観光の在り方に関し、「議論を深めないまま経済効果の側面だけで」開発が進められることに懸念を表明。所得格差については、本土との格差ではなく、沖縄の中の格差が問題で、それを促進した要因が「基地であり財政移転であった」と断じる。終章で、自立に向かって目指すべき社会原理やあるべき自給の形を説いているが、これも大いに議論を呼びそうだ。本書を手に、談論風発しようではないか。(上原良幸・OCVB前会長)

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 やか・むねひこ 1946年沖縄出身。那覇高、香川大、一橋大学大学院を経て、法政大学教授・沖縄文化研究所副所長。同所長を7年間兼務。

沖縄自立の経済学 (叢書・沖縄を知る)
屋嘉 宗彦
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